参議院の特殊性に関する学説
一般的には1対1ないし1対2を投票価値の平等の違憲審査基準と解したとしても、参議院の場合でも同様に解すべきかについては争いがあります。
A説は参議院の特殊性を考慮する立場です。参議院の場合については都道府県ないしそれより大きな政治単位における国民の意見や利害を均等に反映させるように構成することも可能であるとします。その理由として、第一に日本国憲法が二院制を採用していることを考慮するならば平等原則は総体的な代表選出制度の中で実現されるべき課題というべきであること、第二に半数改選が憲法上の原則であるからそれに付随してその定数配分は衆議院の場合とは異なる人口比率の偏差がありうることが挙げられます。
B説は通説であり原則として参議院の特殊性を考慮しない立場です。真にやむを得ない合理的な理由の存する限りにおいて衆議院の場合よりも若干の緩和が認められるにとどまるとします。その理由として、第一に憲法が参議院の選挙制度について要求しているのは半数改選制にとどまるから地方区を選挙区とする議員の地域代表的性格を強調して民主政の根幹をなす選挙権の平等という憲法原則を大きく傷つけるようなことがあってはならないこと、第二に半数改選制を運用するうえで定数配分が人口比例原則から著しく乖離する状態になりその是正がもし現行法制のままでは不可能に近いとすれば投票価値の平等を活かすためにむしろ選挙制度の改正を検討すべきであることが挙げられます。
参議院議員定数不均衡に関する判例の変遷
最高裁判所は参議院の半数改選制や地域代表的性格といった特殊性を考慮して衆議院の場合よりも大きな較差を許容しているといわれていました。
最大較差が1対4であった事案では投票価値の平等に反しないとされ立法政策の当否の問題であるとしました。
最大較差が1対5.26であった事案では投票価値の平等に反しないとされ、投票価値の平等の要求は人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解さざるをえないとしました。
最大較差が1対6.59であった事案では投票価値の平等に反するとされましたが合理的期間内に定数是正がなされなかったとは断定できないとされました。
最大較差が1対4.81であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。
最大較差が1対4.98であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。この判決の反対意見では都道府県代表的要素は考慮することにしても憲法に直接その地位を有しているものではなく選挙制度の仕組みを決定するに当たって考慮される要素として極めて重要な基準である投票価値の平等に対比しはるかに劣位の意義ないし重みしか有しないとしています。
最大較差が1対5.06であった事案では投票価値の平等に反しないとされましたが、補足意見と反対意見をあわせるとこのまま推移すれば違憲となりうるとする認識を示す裁判官が多数を占めました。
最大較差が1対5.13であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。判決言渡しから本件選挙までの間に是正が困難なことから本件選挙後協議を再開することを申し合わせ選挙後法改正した結果較差が1対4.84に縮小したことなどの事情を考慮すると本件選挙までに定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものとはいえないとしました。
参議院議員定数不均衡に関する近時の判例
最大較差が1対4.86であった事案では結論としては憲法違反ではないと判断されました。しかし投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存在する状態であり選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるをえないとしたうえで、現行の選挙制度の仕組みを維持する限り各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは最大較差の大幅な縮小を図ることは困難でありこれを行おうとすれば現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できないとし、国会において速やかに投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて適切な検討が行われることが望まれるとしました。
最大較差が1対5.00であった事案では結論としては憲法違反ではないと判断されました。しかし参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いとしたうえで、投票価値の不均衡は投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しておりこれを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはないとしました。
最大較差が1対4.77であった事案では結論としては憲法違反ではないと判断されました。しかし4増4減の措置は制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり現に選挙区間の最大較差については改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたとして違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとしました。
合区の導入と近時の判例
最大較差が1対3.08であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。公職選挙法の改正は長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた仕組みを見直すべく人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり、これによって選挙区間の最大較差が縮小したのであるから較差の是正を図ったものとみることができるとしました。
最大較差が1対3.00であった事案では改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないとしました。
最大較差が1対3.03であった事案では、立法府が参議院議員の選挙制度の改革に向けた議論を継続する中で較差の拡大の防止等にも配慮して4県2合区を含む定数配分規定を維持したという経緯に鑑みれば立法府が較差の更なる是正を図るとともにこれを再び拡大させずに持続していくための具体的な方策を新たに講ずるに至らなかったことを考慮しても本件選挙当時の選挙区間の最大較差が示す投票価値の不均衡が憲法の投票価値の平等の要求に反するものであったということはできないとしました。
地方議会の場合
地方議会の場合は公職選挙法15条8項で人口に比例して条例で定めなければならないとして定数配分における人口比例原則が法定されているため、国会議員の場合よりも強く人口比例原則が要請されるのではないかが問題となります。
学説上は通説として、選挙権の本質を国政及び地方政治の意思決定に参加する主権者の権利として国と地方とを同質的に捉えるならば地方議会の方が厳しいとする合理的根拠は乏しいことから国政選挙の場合と差がないと考えられています。
判例は地方公共団体の議会の議員の選挙に関し当該地方公共団体の住民が選挙権行使の資格において平等に取り扱われるべきであるにとどまらず投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法の要求するところであるとしたうえで、公職選挙法の規定は憲法の要請を受け地方公共団体の議会の議員の定数配分につき人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているとしました。この強く要求の意味するところについては争いがありますが修辞的なもの以上の意味を有していないと評価するのが一般的です。
地方議会議員定数不均衡に関する判例では、最大較差1対7.45で投票価値の平等に反し合理的期間内に是正がなされなかったとされた事例、最大較差1対2.81で反しないとされた事例、最大較差1対3.81で反するが合理的期間内に是正がなされなかったとは断定できないとされた事例、最大較差1対3.09で反し合理的期間内に是正がなされなかったとされた事例、最大較差1対2.89で反しないとされた事例、最大較差1対1.92で反しないとされた事例があります。
事情判決の法理
選挙無効訴訟において地域間の定数較差が違憲であると判断された場合、一般原則に従って選挙を無効とすべきかが問題となります。公職選挙法は選挙関係訴訟について行政事件訴訟法31条の準用を明示的に排除しているためいわゆる事情判決の法理の適用があるのかが問題となります。
判例は行政事件訴訟法31条1項前段の事情判決の規定には行政処分の取消の場合に限られない一般的な法の基本原則に基づいたものとして理解すべき要素も含まれているとしました。もっとも公職選挙法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されていますが、行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するとしました。
そして本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであるがそのことを理由としてこれを無効とする判決をしてもこれによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなくかえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずるとしました。これらの事情等を考慮するときは本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ選挙自体はこれを無効としないこととするのが相当であるとしました。このような場合においては選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが相当であるとしました。
仮に一部の選挙区のみが無効となると、投票価値が不平等であるとされた選挙区からの代表者がいない状態で定数配分規定の是正が行われるという異常な状態となるため、行政事件訴訟法31条1項の背後にある事情判決の法理によって配分規定の違法宣言を行う一方で選挙の無効の請求を棄却しました。
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