地方自治の意義
地方自治とは地方における政治と行政を地域住民の意思に基づいて国から独立した地方公共団体がその権限と責任において自主的に処理することをいいます。
明治憲法は地方自治を憲法では規定せずすべて法律で定めていました。地方制度関係規定は憲政不可欠の内容事項と考えられなかったこと及び府県のあるべき姿について政府部内に意見の不一致が存在したことがその理由です。明治憲法下の地方自治制度は権限と人事の面で国の監督権が強く認められるなど著しく官治的な色彩が濃いものでした。
日本国憲法は特に第8章に地方自治の章を設け地方自治を憲法上の制度として厚く保障しています。地方自治制度は民主主義の基盤の育成及び中央政府への権力集中を防止する手段として重要な役割を有しているためです。
地方自治の本旨
92条は地方公共団体の組織及び運営に関する事項は地方自治の本旨に基いて法律でこれを定めると規定しています。地方自治の本旨には一般に住民自治と団体自治の二つの要素があるとされます。
住民自治とは地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素をいいます。住民自治の現れとしては地方公共団体の長及び議員を住民が直接選挙すること、地方特別法に対する住民投票及び住民の直接請求すなわち条例の制定や改廃の請求、監査の請求、議会の解散請求並びに議員や長及び役員の解職請求があります。
団体自治とは地方自治が国から独立した団体に委ねられ団体自らの意思と責任の下でなされるという自由主義的かつ地方分権的要素をいいます。団体自治の現れとしては地方公共団体の自治権がありその一例として地方公共団体の課税権があります。
地方自治保障の性質
地方自治権の根拠についていくつかの見解があります。
固有権説は個人が国家に対して固有かつ不可侵の権利をもつのと同様に地方公共団体もまた固有の基本権を有するとします。この見解によれば国家が地方公共団体の固有の権限を制限することは許されません。もっとも主権の単一不可分性に反すること、固有権として説明される自治権の具体的内容が明確ではないこと及び地方自治についてみるべき伝統の存在しない日本では存立の現実的基盤に乏しいことが批判されています。
伝来説は地方自治は国が承認する限り認められるものであるとします。この見解によれば国は地方自治の廃止も含めて地方自治保障の範囲を法律によって定めることができます。もっとも憲法が地方自治に関して特に独立の章を設けて保障した意義を没却すること及び地方自治を認めない地方自治の本旨は論理矛盾であることが批判されています。
制度的保障説は通説であり地方自治の保障は地方公共団体の自然権的かつ固有権的基本権を保障したものではなく地方自治という歴史的、伝統的かつ理念的な公法上の制度を保障したとみます。地方自治の本旨には特別の法的意味があるとされます。この見解によれば国は法律によっても地方自治制度の本質的内容ないし核心的部分を侵すことはできません。もっとも地方自治の本質的内容が明確ではないため憲法上保障される制度の具体的内容が不明であること及び自治権の最低限度を保障する機能はもつが逆に国の立法による規律が許容されるために地方自治権を制限する方向に作用する危険性があることが批判されています。
大牟田市電気税訴訟第一審判決は憲法は地方自治の制度を制度として保障していると述べ制度的保障説の立場に立っています。
地方公共団体の意義
一般に地方公共団体とは国家の領土の一定の区域をその構成の基礎としその区域内の住民をその構成員として国家より与えられた自治権に基づいて地方公共の福祉のためその区域内の行政を行うことを目的とする団体をいいます。日本国憲法上何が地方公共団体に当たるかについては明文規定が置かれていません。
地方自治法は地方公共団体を普通地方公共団体と特別地方公共団体とに分けています。普通地方公共団体には都道府県と市町村があります。特別地方公共団体には特別区、地方公共団体の組合及び財産区があります。
二段階制の保障
92条から95条までの規定はいずれも地方公共団体と規定するが何が地方公共団体に当たるかが明らかでないため都道府県と市町村というような二段階制は憲法上の要請なのか及び二段階制が憲法上の要請であるとしてもいわゆる道州制を採用することも許されるのかが問題となります。
A説は二段階制を採用するか否かは立法政策の問題であるとします。憲法は必ずしも現に存在するすべての地方公共団体がそのまま地方公共団体として存続することを要求するわけではなく地方公共団体はすべて地方自治の本旨に基いて法律で定められるべきことを要求するにとどまるからです。この見解によれば現行の二段階制の地方公共団体を一段階制にも三段階制にもすることが立法政策上可能ですが地方自治の本旨に反する地方公共団体の廃止は違憲となります。
B説は二段階制は憲法上の要請であるとします。明治憲法下の官選知事制度を廃止して公選知事制度とし中央集権的官僚制の一環をなす不完全自治体であった都道府県を完全自治体化することによって地方行政の民主化を意図したという現行憲法の歴史的背景を重視すべきであることがその理由です。この見解にはさらに都道府県と市町村という固定した二重構造を保障しているとして現行の都道府県制を廃止して道州制を採用することは憲法違反となるとする立場と、二段階の地方公共団体の存在は憲法上の要請であるが上級の地方公共団体について都道府県を維持するか道州制のような地方の行政の広域化に対応した地方公共団体を設けるかは立法政策の問題であるとする立場があります。
特別区の地位
東京都の特別区が憲法上の地方公共団体といえるかについて争いがあります。
A説は判例であり特別区は憲法上の地方公共団体に当たらないとします。判例は憲法上の地方公共団体といいうるためには単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み共同体意識をもっているという社会的基盤が存在し沿革的にみてもまた現実の行政の上においても相当程度の自主立法権、自主行政権及び自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするとしたうえで特別区は93条2項の地方公共団体には当たらないとしました。もっとも国会が法律で予め自主立法権などを奪っておけば基準を欠くことになるとの批判や共同体意識というのは測定不能で漠然としているとの批判があります。
B説は特別区も憲法上の地方公共団体に当たるとします。東京都の23区以外の住民に対しては市町村という二段階制が保障されているのに対して23区の住民が都という地方公共団体しか有しないのは合理性がないこと及び昭和49年の地方自治法の改正による区長公選制復活の背景に各特別区住民の準公選運動が存在したことは共同体意識の存在を示していることがその理由です。
なお地方公共団体の組合及び財産区が92条の地方公共団体に当たるか否かについては通説はこれを否定しています。93条及び94条の地方公共団体に当たらないという点については争いがありません。
地方公共団体の機関
93条は地方公共団体にはその議事機関として議会を設置すること及び地方公共団体の長やその議会の議員等はその地方公共団体の住民が直接これを選挙することを定めています。
地方自治法は93条を受けて首長主義を採用し議決機関としての議会と執行機関としての長とをともに直接民意に基礎を置く住民の代表機関として対立させる二元代表制を採っています。権限を分離しそれぞれの自主性を尊重しつつ相互の間の均衡と調和とが図られた地方自治の運営を目的とするものといえます。
地方自治法は首長制に議院内閣制の要素を加味しています。議会は当該地方公共団体の長の不信任決議をなすことができその場合に長は議会の解散権を有します。長の議会解散権は国政レベルにおける内閣の衆議院解散権と異なり解散できる場合が議会が不信任議決をした場合と不信任の議決とみなしうる場合の二つに限定されていること及び議会が不信任の議決をする場合の定足数を3分の2以上と要件を重くしかつ4分の3以上の特別多数を必要とすることという特徴があります。
地方公共団体の議会は住民の代表機関であり議決機関ですが国会が国権の最高機関であるのと異なり自治権の最高機関たる地位にあるものではなく執行機関との関係においては執行機関と独立対等の関係に立ちます。なお町村においては条例で議会を置かず選挙権を有する者の総会を設けることができます。町村総会も憲法にいう議事機関としての議会に当たるので地方自治法のこの規定は93条に違反しないと解されています。
93条2項は法律の定めるその他の吏員が住民によって直接選挙されることを定めていますがこれは住民によって直接選挙される公務員を法律で設けることができるとする趣旨であり必ずそのような公務員を設けなければならないとする趣旨ではありません。
住民投票条例と直接民主主義
憲法では住民の直接選挙以外には地方特別法の制定に関する住民投票が規定されているにすぎませんが地方自治法では住民の直接請求制度が認められています。これらの直接民主主義制度が採用されることは住民自治の要請にかなうものとされています。もっとも上記直接請求制度は憲法上の要請に基づくものではありません。
住民投票の結果に法的拘束力があるか否かが問題となった事件において判例は住民投票の結果に法的拘束力を肯定すると間接民主制によって市政を執行しようとする現行法の制度原理と整合しない結果を招来することにもなりかねないとして住民投票条例の尊重義務規定は市長に対し住民投票の結果を参考とするよう要請しているにすぎないとしました。
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