毀棄及び隠匿の罪の保護法益
毀棄及び隠匿の罪の保護法益は個人の財産としての物ないし物の効用です。ただし境界損壊罪に関しては土地に関する権利の範囲の明確性が保護法益とされています。
公用文書等毀棄罪
258条は公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は3月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。
公務所の用に供する文書
公務所の用に供する文書とはその作成者や作成の目的等にかかわりなく現に公務所において使用に供せられ又は使用の目的をもって保管されている文書を総称します。公文書であると私文書であるとを問いません。偽造文書や未完成の文書であってもよいとされています。また保存期間が経過した後の廃棄前の文書であってもよいとされています。
公用文書等毀棄罪における毀棄
毀棄とは文書又は電磁的記録の本来の効用を毀損する一切の行為をいいます。文書に記載されている事項を部分的に抹消する行為や文書に貼付されている印紙を剥離するなど形式的部分を毀損する行為のほか裁判所から隠匿目的で記録を持ち出し自宅で保管する行為も毀棄にあたります。
私用文書等毀棄罪
259条は権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は5年以下の拘禁刑に処すると定めています。
権利又は義務に関するとは権利や義務の存否や変更等を証明しうることをいいます。手形や小切手等の有価証券がこれにあたります。単なる事実証明に関する文書は含まれません。
他人の文書とはその文書の名義人が誰であるかとは関係がなく他人が所有していることを意味します。他人が所有する自己名義の文書の日付を改ざんした行為や文書の内容を変更しないで文書の連署者の署名を抹消し新たに他の氏名の署名を加えた行為は毀棄にあたります。
建造物等損壊罪及び同致死傷罪
260条は他人の建造物又は艦船を損壊した者は5年以下の拘禁刑に処すると定めています。よって人を死傷させた者は傷害の罪と比較して重い刑により処断するとされています。
建造物の意義
建造物とは家屋その他これに類似する建築物であって屋蓋を有し障壁又は柱材によって支持され土地に定着し少なくともその内部に人が出入りしうるものをいいます。
器物が建造物の一部として認められるか否かは当該物と建造物との接合の程度のほか当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決します。判例は住居の玄関ドアについて外壁と接続し外界との遮断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから建造物損壊罪の客体にあたるものと認められ適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしてもこの結論は左右されないとしています。
損壊しなければ取り外しが不可能であり当該建造物における機能上の重要性を有するものとしては天井版、敷居、鴨居、屋根瓦などがあります。損壊しなくとも取り外しが可能であるが当該建造物における機能上の重要性を有するものとしては住居の玄関ドア、出入口ガラス扉、鉄製シャッターなどがあります。一方で損壊しなくとも取り外しが可能であり当該建造物における機能上の重要性も有しないものとしてはガラス障子、板戸、雨戸、畳などがあり建造物性は否定されます。
艦船とは軍艦及び船舶をいいます。
他人の建造物というためには他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しないとされています。
建造物等損壊罪における損壊
損壊とは建造物や艦船の実質を毀損すること又はその他の方法によってそれらの物の使用価値を滅却若しくは減損することをいいます。物質的に形態を変更又は滅尽させる場合のほか事実上その本来の用法に従って使用しえない状態に至らせる場合をも含みます。建造物や艦船の用法を全く不能にすることを要せずまた必ずしもその主要な構成部分を毀損した場合に限りません。
多数のビラを建物の壁や窓ガラス戸やシャッター等に糊で貼付する行為は建造物の効用を毀損するものであって損壊にあたります。また公園内の公衆便所の外壁にスプレーでペンキを吹き付けて大書した行為も損壊にあたります。
器物損壊等罪
261条は前3条に規定するもののほか他人の物を損壊し又は傷害した者は3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処すると定めています。
器物損壊罪の客体
物とは財物のことであり動物も含みます。また建造物以外の不動産も客体となります。さらに違法な物も本罪の客体にあたります。
器物損壊罪における損壊
損壊とは物質的に器物自体の形状を変更しあるいは滅尽させる場合だけでなく事実上又は感情上その物を本来の用途に従って使用できなくすることすなわちその物の本来の効用を失わせることをいいます。
毀棄や損壊の意義については物理的損壊説と効用侵害説の対立があります。物理的損壊説は財物の物理的損壊を要求する見解であり法文上使用されている用語の日常用語的理解に適うことをその理由とします。これに対しては物理的損壊に限定するのでは処罰範囲が狭すぎること及び窃盗罪に不法領得の意思が必要とすると隠匿目的で他人の物の占有を取得する行為については窃盗罪でも毀棄罪でも処罰できなくなってしまうことが批判として指摘されています。
効用侵害説は判例及び通説の立場であり物理的損壊に限定せず物の効用を害する一切の行為を含む見解です。物理的損壊に限定するのでは処罰範囲が狭すぎることをその理由とします。これに対しては法文上使用されている用語の日常用語的理解からの隔たりが大きいとの批判があります。
器物損壊罪における傷害
傷害とは動物を殺傷することをいいます。動物としての効用を失わせる行為も含まれ鳥かごを開けて鳥を逃がす行為や池に飼育されている鯉を生けすの柵を外して流失させる行為もこれにあたります。
自己の物の損壊等
262条は自己の物であっても差押えを受け物権を負担し賃貸し又は配偶者居住権が設定されたものを損壊し又は傷害したときは前3条の例によると定めています。この規定は私用文書等毀棄罪、建造物等損壊罪、建造物等損壊致死傷罪及び器物損壊罪に適用されますが公用文書等毀棄罪、境界損壊罪及び信書隠匿罪には適用されません。
境界損壊罪
262条の2は境界標を損壊し移動し若しくは除去し又はその他の方法により土地の境界を認識することができないようにした者は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。
本罪は不動産侵奪罪の新設に併せて創設されたものであり不動産侵奪罪の予備的行為を対象とし土地に対する権利の範囲に重要な関係をもつ境界の明確性を保護すべく土地の境界を不明確にする行為を処罰するものです。
土地の境界とは権利者を異にする土地の限界線をいいます。土地に対する権利は所有権ばかりでなく地上権や賃借権などでもよいとされています。境界は現に存在する事実上のものであれば足り法律上正当なものであるかどうかを問いません。
境界標とは柱や杭等の土地の境界を示す標識をいいます。立木などの自然物でもよく地上に顕出されていると地中に埋没されているとを問いません。永続的なものでも一時的なものでもよく自己の所有に属するものであると他人の所有に属するものであるとを問いません。
その他の方法とは土地の境界を認識しえなくする方法として例示されている境界標の損壊、移動及び除去に準ずるものでなければなりません。
本罪が成立するためには境界を認識することができなくなるという結果が発生することを要します。境界標を損壊したが未だ境界が不明にならないという場合には器物損壊罪が成立することは格別本罪は成立しません。
信書隠匿罪
263条は他人の信書を隠匿した者は6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料に処すると定めています。
他人のとは他人が所有するという意味であり発信人が他人である必要はありません。信書とは特定人から特定人に宛てた文書をいいます。信書開封罪とは異なり特に封緘された信書に限られないから葉書なども含まれます。なお信書としての目的を完全に果たしてしまえば信書でなくなります。
信書隠匿罪の位置づけについては毀棄の意義をめぐって争いがあります。物理的損壊説に立つと隠匿は毀棄にあたらないので本罪は信書について処罰範囲を拡張する規定と解することになります。一方で効用侵害説に立つと隠匿も毀棄にあたるので器物損壊罪が成立するはずですが信書の隠匿を特に軽く処罰したものが本罪であると解することになります。
親告罪
264条は私用文書等毀棄罪、器物損壊等罪及び信書隠匿罪は告訴がなければ公訴を提起することができないと定めています。公用文書等毀棄罪、建造物等損壊罪、建造物等損壊致死傷罪及び境界損壊罪は親告罪ではありません。
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