財産以外の損害の賠償
710条は他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず709条の規定により損害賠償の責任を負う者は財産以外の損害に対してもその賠償をしなければならないと定めています。
慰謝料請求権
慰謝料請求権の前提である苦痛の感受性は被害の当時備わっている必要はなく幼児など責任能力や事理弁識能力を欠く者であっても請求可能です。生命侵害に比肩する精神的苦痛を受けた近親者も請求可能です。
慰謝料請求権は身体、自由又は名誉が害された場合のほか財産権が侵害された場合にも認められます。慰謝料額の算定は加害の程度や当事者双方の資産、年齢、職業、社会的地位などの諸般の事情を考慮して裁判所が決定すべきとされています。
名誉とは人の品性、徳行、名声、信用などの人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいいます。事実摘示により客観的な社会的評価が低下することで足り本人が名誉毀損の事実を知る必要はありません。法人も名誉が毀損され無形の損害が発生した場合にも金銭評価が可能である限り710条に基づく損害賠償請求が可能です。
近親者に対する損害の賠償
711条は他人の生命を侵害した者は被害者の父母、配偶者及び子に対してはその財産権が侵害されなかった場合においても損害の賠償をしなければならないと定めています。生命侵害の場合について被害者の父母、配偶者及び子が慰謝料請求権を有することを明確にし立証責任の負担を軽減したものです。
本条は列挙している者についての立証責任を軽減したにとどまりそれ以外の者については709条及び710条に基づき精神的損害を立証して慰謝料請求ができるとする説があります。判例は本条に該当しない者であっても被害者との間に本条所定の者と実質的に同視できる身分関係が存在し被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者にも本条の類推適用を認めるとしています。たとえば祖父母、舅、兄弟姉妹、内縁配偶者や被害者と長年同居してその庇護の下に生活を維持していた者も含まれます。
不法行為により身体に傷害を受けた者の母がそのために被害者の生命侵害の場合にも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたときは709条及び710条に基づいて自己の権利として慰謝料請求できるとされています。
損益相殺
不法行為により損害を受けながら他方において支出すべき費用の支出を免れたというように同一の原因によって利益を受けている場合にはこの利益を損害額から控除して賠償額を算定することを損益相殺といいます。損益相殺について明文はありませんが公平の理念から解釈上認められており709条の損害は損益相殺をした後の損害を意味します。
控除される利益は不法行為と相当因果関係が認められるものに限られます。死亡した被害者の生活費は控除されます。生命保険金は保険金が既に払い込んだ保険料の対価であるため控除されません。幼児の逸失利益の算定に当たって労働可能年齢に達するまでの養育費の控除は認められません。
建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど社会通念上建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには建物の買主がこれに居住していたという利益については損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないとされています。
不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族補償年金の支給を受け又は受けることが確定したときはその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り不法行為の時に逸失利益等の消極的損害の元本に填補されたものとして損益相殺的な調整をすべきとされています。遺族補償年金の填補の対象である被扶養損害は逸失利益等の損害と同性質かつ相互補完性があるためです。もっとも遅延損害金にはそのような性質がないから損益相殺的な調整の対象とはなりません。
損益相殺と過失相殺との順序については過失相殺を行った後に損益相殺を行います。過失相殺した結果が被害者が受けた真の損害であり損益相殺はその後現実の損害額を決定するものであるためです。
差止請求
差止請求権は特別法上規定があるものがありますが民法上明文はありません。しかし判例上人格権や不法行為などを根拠に差止めを認めるものがあります。差止請求権が認められるのは単に違法な侵害があるだけでは足りず被侵害利益の種類、被害の程度、加害行為の公共性などの要素を考慮して受忍限度を超えた場合に限り認められます。この意味で金銭賠償は認められるが差止請求は認められないという場合もありえます。
示談と損害賠償
全損害を正確に把握し難い状況の下で早急に少額の賠償金で満足する旨の示談がなされた場合には被害者が放棄した賠償請求権は示談当時予想していた損害の範囲に限られるとされています。
製造物責任法
製造物の欠陥により生命、身体又は財産を侵害されて損害を被った者が製造業者等に損害賠償請求をする場合には製造業者等に故意や過失があったことは要件とされず無過失責任とされています。欠陥とは当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい欠陥は製造物の引渡時すなわち製造業者等が当該製造物を流通に置いた時に存在することが必要です。
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