虚偽公文書作成罪の間接正犯の補足
虚偽公文書作成罪は作成権限を有する公務員を主体とする身分犯です。主体が私人の場合には本罪の共犯としてはともかく単独犯として同罪の間接正犯を犯すことはできません。
主体が作成権限を有しない公務員の場合には156条の公務員という法文上の障害は存在せず実質的にも作成権限を有しない公務員であっても作成権限を有する公務員を利用して虚偽公文書を作成することが可能です。もっとも156条にいうその職務に関しという要件を満たす必要があるので作成権限を有する公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が主体の場合には虚偽公文書作成罪の間接正犯の成立を認めることも可能ですが単なる公務員が主体の場合には私人の場合と同様に本罪の間接正犯の成立を認めることはできないと解されています。
公正証書原本不実記載等罪
157条1項は公務員に対し虚偽の申立てをして登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。
同条2項は公務員に対し虚偽の申立てをして免状、鑑札若しくは旅券に不実の記載をさせ又は電磁的記録文書等その他の電磁的記録であって免状、鑑札若しくは旅券の全部若しくは一部として用いられるものに不実の記録をさせた者は1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処すると定めています。
同条3項は上記各罪の未遂は罰すると定めています。
本罪は特に重要な証明力を有する公文書であって私人の申告に基づいて作成される公文書につき記載内容の真正を担保する必要上虚偽公文書作成罪の間接正犯のうち特定の場合を独立罪として処罰したものです。
公正証書原本不実記載罪の各要件
虚偽の申立てとは真実に反する申立てをすることをいいます。申立事項の内容に虚偽がある場合だけでなく申立資格に虚偽がある場合も含まれます。
申立人が作成権限を有する公務員と共謀の上で虚偽の申立てを行い公正証書の原本に不実記載がなされた場合には当該公務員には虚偽公文書作成罪が成立し当該申立人には公正証書原本不実記載罪ではなく虚偽公文書作成罪の共同正犯が成立します。
共謀はないが公務員が虚偽の申立てであることを偶然知るに至った場合において公務員に申立ての実質的審査権があれば当該公務員に虚偽公文書作成罪が成立し当該申立人には公正証書原本不実記載等罪の未遂が成立します。公務員に申立ての形式的審査権しかない場合には申立ての内容が虚偽であっても当該公務員はそのまま記載又は記録せざるを得ないので当該公務員の行為は犯罪とならず当該申立人に公正証書原本不実記載等罪が成立すると解されています。
権利若しくは義務に関する公正証書の原本とは公務員がその職務上作成する文書であって権利や義務に関する事実を証明する効力を有するものをいいます。原本である必要があるため謄本や抄本及び写しはこれに含まれません。権利若しくは義務については財産上のものに限られず身分上のものも含まれます。登記簿や戸籍簿のほか公証人が作成する公正証書、土地台帳、住民票及び外国人登録原票などがこれにあたります。
不実の記載又は不実の記録とは客観的事実に反する事柄を記載又は記録することをいいます。中間省略登記は単なる対抗要件の省略であって内容は真実と一致している以上不実の記載にはあたらないと解されています。
電磁的記録とは電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって電子計算機による情報処理の用に供されるものをいいます。
免状等不実記載罪
免状とは特定の人に対して一定の行為を行う権利を付与する公務所又は公務員の作成する証明書をいい運転免許証や医師免許証などがこれにあたります。鑑札とは公務所の許可又は登録があったことを証明する証票でありその交付を受けた者がこれを備え付け又は携帯することを要するものをいいます。旅券とは外国に渡航する人に対して発給される文書であり国籍等を証明し旅行に必要な保護などを関係官に要請する旨を記載したものをいいます。
公正証書原本不実記載罪と他罪の関係
公正証書原本不実記載罪及び同行使罪と詐欺罪とは罪質上通例手段と結果の関係にあるものと認められるため牽連犯となります。免状等不実記載罪は虚偽の申立ての結果内容虚偽の記載のある免状等の交付を受けるという行為をも包含して処罰する規定であるため虚偽の申立てにより不実の記載がなされた免状等の交付を受けた場合に別途詐欺罪は成立しません。
偽造公文書行使等罪
158条1項は154条から157条までの文書等若しくは電磁的記録文書等を行使し157条1項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供し又は同条2項の電磁的記録を人の事務処理の用に供した者はその文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し若しくは変造し虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処すると定めています。同条2項は本罪の未遂は罰すると定めています。
本罪の客体は行使者本人により偽造又は変造等されたものかを問わず行使又は供用の目的をもって作成されたものでなくてもよいとされています。偽造公文書を客体とする交付罪は刑法上存在しません。
用に供するとは不実の記録がなされた電磁的記録を公正証書の原本と同様の機能を有するものとして使用可能な状態に置くことをいいます。
行使の意義
行使とは偽造、変造又は虚偽作成にかかわる文書を真正文書又は内容の真実な文書として他人に認識させ又は認識しうる状態に置くことをいいます。
偽造運転免許証を携帯して自動車を運転するだけで行使にあたるかについて判例は自動車を運転するに際し偽造運転免許証を携帯しているにとどまる場合には未だこれを他人の閲覧に供しその内容を認識しうる状態に置いたものとはいえないとして行使にあたらないとしています。
行使というためには偽造等にかかる文書自体が真正文書又は内容の真実な文書の外観を有するものであることが必要であるからその文書の内容や形式を口頭で他人に告知するだけでは足りず当該文書自体を他人に示す必要があります。有効期間が経過している偽造運転免許証を提示した場合であっても真正に作成されたものであると誤信させるに足りる外観を具備していたことが明らかであれば偽造公文書の行使にあたります。
私文書偽造等罪
159条1項は行使の目的で他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造した者は3月以上5年以下の拘禁刑に処すると定めています。また他人の電磁的記録印影等を使用した電磁的記録文書等の偽造も同様に処罰されます。
同条2項は他人が押印し若しくは署名した権利、義務若しくは事実証明に関する文書等又は他人が電磁的記録印影等を使用して作成した電磁的記録文書等を変造した者も同様に処すると定めています。
同条3項は上記以外の権利、義務又は事実証明に関する文書等又は電磁的記録文書等を偽造し又は変造した者は1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処すると定めています。
私文書偽造罪の客体
権利、義務に関する文書等とは権利又は義務の発生、変更又は消滅の法律効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書等をいいます。
事実証明に関する文書の意義については争いがあります。甲説は実生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書と解します。判例はこの立場をとっています。乙説は法律上何らかの意味を有する社会生活上の利害関係のある事実の証明に関する文書と解します。甲説に対しては範囲が無限定になるとの批判がありますが乙説に対しては本条の文理からすると基本的には私文書一般を保護の対象としているとみるべきであるとの反論があります。
判例は入学選抜試験の答案について試験問題に対し志願者が正解と判断した内容を所定の用紙の解答欄に記載する文書であり志願者の学力の証明に関するものであって社会生活に交渉を有する事項を証明する文書にあたるとして有印私文書偽造及び行使罪を認めています。
私文書偽造罪の印章と署名
印章とは人の同一性を表示するために使用される象形をいいます。署名とはその主体たる者が自己の表章する文字によって氏名その他の呼称を表記したものをいいます。自書である必要はなく記名でもよいとされています。
私文書偽造罪における偽造
偽造とは文書の名義人と作成者との人格の同一性を偽ることをいいます。私文書偽造罪は作成権限を有する者を欺くことによって間接正犯の形態で犯すことができます。
有印私文書変造罪の変造とは作成権限のない者が真正に成立した文書の非本質的部分に変更を加えることをいいます。作成権限を有する者が行う変造は無形変造であり有印私文書変造罪は成立しません。
他人の印章等を欠く文書等を偽造又は変造した場合には無印私文書偽造又は変造罪が成立します。解釈上行使の目的が要求されています。
代理名義の冒用
代理権を欠く者が代理名義を冒用した場合の名義人について3つの見解があります。
甲説は代理人の表示は資格を示す肩書であり文書の内容の一部をなすものであるから作成名義は代理人自身であるとし名義人を代理人とします。この見解では無形偽造となり原則不可罰です。
乙説は代理名義の文書は本人に法律効果が帰属する形式の文書であるから文書に対する公共の信用を保護する文書偽造罪との関係では本人が名義人となるとし有形偽造として私文書偽造罪の成立を認めます。判例はこの立場をとっています。
丙説は代理名義の文書においては代理人の氏名の表示と代理資格の表示とが一体となって1つの作成名義をなしているとし有形偽造として私文書偽造罪の成立を認めます。
代理人の権限濫用
代理権を有する者がその権限を悪用又は濫用した場合について判例は権限内の行為であれば地位や資格の濫用があっても無形偽造であり無権限又は権限逸脱の場合に初めて偽造罪で処罰しうるとして事案解決していると解されています。
人格の同一性の判断
偽造にあたるかどうかは氏名の同一性ではなく文書の名義人と作成者との人格の同一性という視点で捉えられます。
通称名の使用についてある限られた範囲内でのみ通用していた他人の氏名を使用した場合には人格の同一性に齟齬があるとして私文書偽造罪が成立します。20年以上にわたって他人名義を使用し通称として定着した場合であっても文書に記載された名前から認識される人格は適法に在留を許された別人であるとして私文書偽造及び行使罪が成立するとされています。
資格の冒用について判例は当該文書の記載内容や当該文書を受け取った者との関係を考慮して名義人が誰かを決めるべきであるとしています。
偽名の記載について判例は履歴書の性質や機能に照らし偽名で表示される人物の意思や観念が表示されているとみるべきであるから名義人は偽名上の人物と解すべきであるとして私文書偽造罪の成立を認めています。
名義人の承諾
名義人の承諾を得ていた場合は作成名義の冒用とはいえないことから偽造罪は成立しないのが原則です。もっとも文書の性質上その名義人自身による作成だけが予定されている文書については名義人の承諾があっても偽造罪が成立するかが問題となります。
消極説は名義人の承諾がある以上名義人が文書の作成者となり名義人と作成者は一致するとして偽造罪の成立を否定します。積極説のうち自署性を要求する立場は文書の性質上その名義人自身による作成だけが予定されている文書については事前に名義人の同意があってもその名義人は表示された意思や観念の主体となりえないとします。判例は交通切符中の供述書の性質上名義人以外の者が作成することは法令上許されないということを根拠として私文書偽造罪の成立を認めています。
虚偽診断書等作成罪
160条は医師が公務所に提出すべき診断書、検案書若しくは死亡証書に虚偽の記載をし又は公務所に提出すべき電磁的記録文書等であってそれらの全部若しくは一部として用いられるものに虚偽の記録をしたときは3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処すると定めています。
本罪の主体は私人としての医師であることが必要であり真正身分犯です。公務員である医師の行為の場合には虚偽公文書作成罪が成立します。
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