時効制度の存在理由
時効制度の存在理由は3つあります。第1に長期にわたって継続した事実状態を法律上も尊重し法律関係の安定を図ることです。第2に権利の上に眠っている者は法の保護を受けるに値しないということです。第3に立証の困難を救済することです。
時効制度と類似する制度
除斥期間とは一定の時の経過に権利消滅の効果を認める制度です。もっぱら権利自体の性質から又は公益上の必要から権利関係を速やかに確定するため権利の行使期間を限定するものです。
消滅時効の起算点は主観的起算点と客観的起算点がありますが除斥期間の起算点は権利の発生時です。消滅時効には完成猶予及び更新がありますが除斥期間には原則としてありません。ただし完成猶予に関しては158条の法意に照らし除斥期間の効果が制限される場合があるとする判例があります。消滅時効は援用が必要ですが除斥期間についても援用が必要とされています。なお最高裁大法廷判決は従来の判例を変更し裁判所が除斥期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないとした上で請求権が除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義及び公平の理念に反し到底容認することができない場合には裁判所は除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができるとしました。消滅時効には遡及効がありますが除斥期間には遡及効はありません。
権利失効の原則とは信義に反して長く権利を行使しないでいると信義則上の権利の行使が阻止されるという原則をいいます。法定されていない信義則の適用形態であり援用は不要です。
時効の完成猶予と更新
時効の完成猶予事由と更新事由を合わせて時効の障害事由といいます。
時効の完成猶予とは時効の更新のための手続がとられた場合や時効完成の時に当たって権利者による時効の更新のための措置を不可能又は著しく困難にする事情がある場合に一定期間時効の完成を猶予するものをいいます。前者を権利行使型、後者を権利行使困難型といいます。
時効の更新とは時効がいったん進行を始めた後に時効の基礎である事実状態と相容れない事実が存在するためにその進行が断絶しそれまでに経過した期間が無意味になることをいいます。
時効の効力
144条は時効の効力はその起算日にさかのぼると定めています。時効は時効期間中継続した事実状態をそのまま保護する制度であるから当然のことでありまたそうでないと起算日から完成日に至る権利関係の争いを招き時効制度の意味が失われるためです。
時効の起算点
消滅時効の主観的起算点は債権者が権利を行使することができることを知った時であり客観的起算点は権利を行使することができる時です。
取得時効の起算点は占有又は準占有を開始した時点ですがこれを明定する規定はありません。判例は時効の基礎たる事実の開始した時期を起算点として決定すべきであるとして固定的に捉えています。
時効の遡及効
消滅時効が完成するとその起算点から権利を有していなかったことになります。この結果たとえば債務を負っていた場合であっても起算日以後の利息及び遅延損害金を支払う必要はなくなります。
取得時効が完成すると起算点から権利を有していたことになります。これは原始取得です。この結果時効取得による所有権移転登記の登記原因の日付は時効の起算日である占有開始日となります。また土地の取得時効の場合にはその果実は占有者に属し起算日以後の占有は不法占拠ではなくなります。地代相当額を前所有者に返還する必要はなく時効期間中に権利を侵害した者は前所有者にではなく権利取得者に対して賠償責任を負います。
時効の援用
145条は時効は当事者が援用しなければ裁判所がこれによって裁判をすることができないと定めています。消滅時効にあっては保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含みます。時効の利益を受けることを潔しとしない当事者の意思を尊重する点にその趣旨があります。
援用の性質
援用の性質については実体法説と訴訟法説の対立があります。
実体法説は時効とは一定の事実状態が永続する場合にそれが真実の権利関係と一致するか否かを問わずそのまま権利関係として認めようとする実体法上の制度であるとします。実体法説の中では不確定効果説と確定効果説が対立しています。不確定効果説はさらに停止条件説と解除条件説に分かれ判例は停止条件説を採用しています。
訴訟法説は時の経過自体に人証及び書証に優越する証拠価値を与える訴訟法上の証拠方法に関する制度であるとします。
実体法説では援用は時効により生ずる効力を確定させる意思表示であり裁判外でも可能です。訴訟法説では援用は訴訟法上の攻撃防御方法の提出又は法定証拠を裁判所に提出する行為であり裁判上なす必要があります。
援用権者の範囲及び援用の時期については両説の間に事実上の差異はありません。援用の効力は相対効であり撤回は実体法説では不可ですが訴訟法説では可能とされています。援用の具体的な時期は口頭弁論終結前です。
援用権者の範囲
取得時効については判例により賃借権者及び地上権者の時効援用権が肯定されています。他方家屋賃借人は土地所有権の取得時効を援用することはできないとされています。
消滅時効については判例により再売買の予約がなされ仮登記がなされた不動産の第三取得者及び抵当権者、詐害行為の受益者並びに譲渡担保権者から被担保債権の弁済期後に目的物を譲り受けた第三者について時効援用権が肯定されています。
他方債務者及び物上保証人の一般債権者、後順位抵当権者、債権者代位権の第三債務者並びに表見相続人からの第三取得者については時効援用権が否定されています。
援用権の喪失
消滅時効が完成した後に債務を承認した債務者は承認した時点において時効完成の事実を知らなくても信義則上消滅時効を援用できません。ただし承認以後再び時効が完成すれば援用できます。消滅時効の援用が信義則又は権利濫用の法理により許されない場合もあります。
援用の効力は相対的効力であり他の援用権者には影響しません。被相続人の占有により取得時効が完成した場合にはその共同相続人の1人は自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用できるにとどまります。
時効の利益の放棄
146条は時効の利益はあらかじめ放棄することができないと定めています。時効による権利の得喪は1つの公益的な制度でありさらに消滅時効の場合は債権者の強制によりあらかじめ放棄を約束させられる濫用を防止するためです。
時効完成後に放棄することは145条の趣旨にも合致し有効です。時効の利益を放棄した後はその時効の効果を援用することが許されませんが放棄後新たに時効期間が完成猶予又は更新なしに経過した場合には新たな時効が完成します。
放棄の効力は相対的であり放棄した者に限って援用権を失うだけです。主債務者が主債務の消滅時効の利益を放棄しても保証人や物上保証人は主債務の消滅時効を援用することができます。
時効利益の放棄は債務者が時効完成を知って行うことが必要です。また相手方に対する意思表示を要しますがその際相手方の同意は不要です。消滅時効完成後に債務の承認をした事実からその債務の承認が時効が完成したことを知ってされたものであると推定することは許されないとされています。
債務者が時効を援用した場合には債務者において同一内容の債務を当然に負担するものとする旨の特約や時効期間を延長する旨の特約など時効の完成を困難にする債権者と債務者間の特約は146条の趣旨に反し無効です。逆に時効完成を容易にする特約は有効です。
アプリの紹介
過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。
