違憲審査の対象となる国内法規範
違憲審査の対象事項とされる一切の法律、命令、規則又は処分には憲法の下にある一切の国内法規範並びに個別具体的な公権力行為が含まれると解されています。法律とは国会の制定する形式的意味の法律をいい、命令や規則とは法律以外の形式の一般的かつ抽象的規範をいい、処分とは公権力による個別かつ具体的な法規範の定立行為をいいます。処分は行政機関のそれに限らず立法機関や司法機関の行為も含まれ裁判所の判決も含まれます。条例や規則等を含めた一切の法規範が違憲審査権の対象となるという点では学説は一致しています。
判例も最高裁判所の違憲審査権は98条の最高法規の規定又は76条若しくは99条の裁判官の憲法遵守義務の規定から十分に抽出され81条はこれを明文をもって規定したものであり一切の抽象的規範は法律たると命令たると規則たるとを問わず終審として最高裁判所の違憲審査権に服するとともに一切の処分は行政処分たると裁判たるとを問わず終審として最高裁判所の違憲審査権に服するとしました。
条約の違憲審査の可否
81条の文言上条約が違憲審査の対象となるかどうかは明らかではなく学説上争われています。なお国際法と国内法との関係につき二元論を採れば憲法と条約の抵触は生じないから条約は当然に違憲審査の対象とならないといえます。また一元論を採ったとしても条約優位説に立つ場合には条約は違憲審査の対象となりません。条約が違憲審査の対象となるか否かは一元論かつ憲法優位説に立ってはじめて問題となるとされています。
否定説は81条及び98条1項は条約を除外しむしろ98条2項は条約の誠実遵守を謳っていること及び条約は外国との合意によって成立するという特質を有し一国の意思だけで効力を失わせることはできないことに加え極めて政治的な内容をもつものが多いことを理由とします。
肯定説は通説であり条約はそのまま国内法的効力をもつので形式的効力は法律より強いけれども国内法的には81条の法律ないし規則又は処分に準じて扱うことができること及び裁判所が条約を違憲と判断する場合でもそれは条約の国内法的効力を否定するにとどまり国際法上の条約の効力を否定するものではないことを理由とします。
この他にも特に人権保障を侵害するような内容の条約については違憲審査権が及ぶと解する部分的肯定説や条約それ自体は違憲審査の対象にならないが法令等の審査に当たって条約を前提問題として違憲審査することは許されるとする見解があります。
砂川事件において判例は安全保障条約の違憲なりや否やの法的判断は純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものであり一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは裁判所の司法審査権の範囲外のものであるとしました。この判決はおよそ条約なるがゆえに違憲審査の対象とはならないとの論法はとっておらずむしろ審査可能性を前提としたうえで憲法判断を差し控えるという方法をとっています。
立法不作為の違憲審査
積極的な国家行為は原則としてすべて違憲審査の対象となりますが消極的な国家行為である国会の立法不作為は違憲審査の対象となるかが問題となります。
実体法上の問題としてどの時点でどのような立法をすべきかすべきでないかの判断は原則として国会の裁量に委ねられますが一般に憲法の明文上又は解釈上国会の立法義務が導かれる場合には立法不作為も実体法上違憲となりうるとされています。ただし立法をなすうえでは立法内容の検討や審議のため一定の時間が必要であり立法されないことにつき相当の理由がある場合が少なくありません。そこで国会が立法の必要性を十分認識し立法をなそうと思えばできたにもかかわらず一定の合理的期間を経過してもなお放置しているときに立法不作為は具体的に違憲となると解する立場が有力です。
81条は主として積極的な国家行為を問題としているため立法不作為が実体法上違憲となりうるとしてもそれは政治過程の中で対処されていくべき性質のものといえます。しかし個人の重要な基本的人権が立法の不作為ないし不備によって実際に侵害されていることが明確な場合には司法審査の対象となることがあると解されています。
立法不作為に対する違憲審査の方法
立法不作為の違憲性を争う方法としていくつかのものが考えられます。
立法義務付け訴訟については否定説は国会を唯一の立法機関とする41条に反し権力分立の趣旨に反するので認められないとします。肯定説は裁判所は不作為の違憲性を確認するにとどまり国会に対し特定の立法を行うことを命じるわけではないので41条に反しないとします。
違憲確認訴訟については否定説は現行法上違憲確認の訴えという類型は認められておらず違憲判決がなされたとしてもそれによって国会は特定の立法を義務付けられるわけではなく立法不作為による権利侵害は実質的に何ら救済されないため確認の利益に乏しいとします。
在宅投票制度廃止事件
在宅投票制度の廃止及び同制度を復活させる法改正を行わないという不作為が違憲であるとして国家賠償請求訴訟が提起された事件において判例は国会議員の立法行為は立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき容易に想定し難いような例外的な場合でない限り国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けないと判示しました。
在外邦人選挙権制限違憲判決
在外国民が選挙権を行使できなかったことについて判例は次のように判示しました。
国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず国民の選挙権又はその行使を制限するためにはそのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければなりません。そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限りやむを得ない事由があるとはいえません。このことは国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても同様です。
国会が10年以上在外選挙制度を何ら創設しなかったことにはやむを得ない事由があったとは到底いうことができず改正前の公職選挙法が在外国民の投票を全く認めていなかったことは15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するとされました。
立法不作為の国家賠償については立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠でありそれが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには例外的に国会議員の立法行為又は立法不作為は国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けるとされました。
在外邦人国民審査権訴訟違憲判決における立法不作為
在外邦人国民審査権訴訟においても立法不作為の国家賠償法上の違法性が問題となりました。判例は法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては国会議員の立法過程における行動が職務上の法的義務に違反したものとして例外的にその立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるとしました。そして国会が約10年の長きにわたって在外審査制度の創設について所要の立法措置を何らとらなかったことは違法の評価を受けるとされました。
再婚禁止期間違憲判決における立法不作為
再婚禁止期間違憲判決においても同様の判断基準が示されました。この判決は在宅投票制度廃止事件判決及び在外邦人選挙権制限違憲判決の判示をも包摂するものとして立法不作為の違法性に関する一般的な判断基準を整理して示したものと評されています。
客観訴訟における違憲審査の可否
客観訴訟を通じて憲法問題を争うことは事件性の要件をみたさず抽象的審査を認めることになるのではないかが問題となります。この点については客観訴訟の裁判権は認めつつ違憲審査は排除するという考え方もありえますが学説にはいくつかの見解があります。従来の事件性の要件を維持しつつ客観訴訟が具体的な事件性を擬するだけの実質を備えていることを前提に違憲審査を許容する見解、事件性の要件を拡大し客観訴訟もこれに含まれるとする見解、付随的審査制の見地から許容される場合があるとする見解などです。判例も衆議院議員定数不均衡違憲判決等において客観訴訟における違憲審査を肯定しています。
憲法上の争点提起についての適格
憲法上の争点提起についての適格とは適法に成立している訴訟の本案審理に入った段階において違憲の争点を提起し裁判所に憲法判断を求めることができる当事者の利益をいいます。我が国の違憲審査は付随的審査制を採っていると解されるため原則として自己に適用される法令や処分等により自己の憲法上の権利や利益が現実的、実質的かつ直接的に侵害されている場合にのみ法令や処分の違憲を争いえます。しかし付随的審査制の下でも憲法的価値の保障を図る必要があり違憲の争点を主張する適格についての原則を緩和すべき場合もあります。
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