正当行為の意義
35条は法令又は正当な業務による行為は罰しないと定めています。
法令行為
法令行為とは法律及び命令により権利又は義務として行われた行為をいいます。
職務行為とは法令の規定上これを行うことが一定の公務員の職務とされている行為をいいます。権利行為及び義務行為とは法令の規定上ある者の権利又は義務とされている行為をいいます。ただし外形上権利の行使であっても濫用するときは違法性阻却されません。その他の法令行為としては精神障害者に対する措置入院や母体保護法の人工妊娠中絶があります。
正当業務行為
正当業務行為とは法令上の根拠がなくても正当と認められる業務による行為をいいます。業務とは社会生活上の地位に基づいて反復及び継続される行為をいい必ずしも職業として行われるものであることを要しません。正当化されるためには業務が正当なものであるとともに行為自体も業務の正当な範囲内のものであることが必要です。
判例は虚偽告訴の罪で起訴された被告人が人違いで告訴したことに気づきながら公判廷において公然と虚偽の事実を摘示して被告訴人の名誉を毀損した場合にはその行為は防禦権の範囲を逸脱した防禦権の濫用であるとして名誉毀損罪の成立を認めています。
判例は殺人被告事件の弁護人が第1審の有罪判決後に行った記者会見において真犯人は被告人の兄である旨発表した行為について訴訟外の救援活動に属するものであり弁護目的との関連性も著しく間接的であって正当な弁護活動の範囲を超えるものであるとして正当な業務行為としての違法性阻却を認めませんでした。
判例は報道機関が取材の目的で公務員に秘密を漏示するよう唆したとしてもそれが真に報道の目的から出たものでその手段及び方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは実質的に違法性を欠き正当な業務行為であるとしています。もっとも当該事案では取材方法が社会観念上不相当なものであり正当な取材活動の範囲を逸脱するとして違法性阻却を認めませんでした。
裁判例は爪切り用ニッパーで爪床部分を露出させた行為が傷害行為に当たるとしつつも看護目的でなされ看護行為として必要性があり手段及び方法も相当といえる範囲を逸脱するものではないから正当業務行為として違法性が阻却されるとしています。
治療行為
治療行為とは外科手術など病者の治療のために医学上一般に承認されている方法によって人の身体を傷つける行為をいいます。専断的治療行為とは病者に対しその者の同意なしに治療行為を行うことをいいます。
治療行為の正当化根拠については構成要件該当性阻却説と違法性阻却説があります。構成要件該当性阻却説のうち甲説は医学上一般に承認されている方法で行う医療は類型的に人の身体に危険をもたらすとはいえず社会通念上傷害の概念にあてはまらないとします。乙説は優越的利益の保護と患者の意思の尊重を根拠とし患者の承諾が最も重要であるとします。違法性阻却説のうち丙説は被害者の同意及び推定的同意の法理を根拠とし丁説は社会的相当性を根拠とします。
専断的治療行為については甲説からは同意がなくても治療行為であるから傷害罪の構成要件に該当しないとされます。乙説からは患者の意思に反する以上構成要件に該当し正当化のための要件は緊急避難類似の厳格なものが要求されるとされます。丙説からはたとえ治療の目的を達しても違法であるとされます。丁説からは患者の承諾なしに行われる場合は社会的に相当な行為とはいえず違法であるとされます。
判例は精神異常平癒の祈願のための加持祈祷としてなされた行為につきその動機及び手段方法並びにそれによって生命を奪うに至った暴行の程度等は医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは到底認められず一種の宗教行為としてなされたものであったとしても他人の生命及び身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当たるものであり憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものであるとしています。
労働争議行為
労働争議行為とは労働者がその主張を貫徹することを目的として行う同盟罷業及び怠業などで業務の正常な運営を阻害するものをいいます。
判例は争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当たってはその行為が争議行為に際して行われたものであるという事実をも含めて当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れそれが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならないとしています。
自救行為
自救行為とは権利を侵害された者が法律上の手続による救済を待っていては時機を失して当該権利の回復が事実上不可能又は著しく困難となる場合に自ら実力でその救済を図ることをいいます。判例は自救行為は正当防衛及び正当業務行為などとともに犯罪の違法性を阻却する事由であるとしています。
自救行為を安易に広く認めると国家機関による救済を軽視し実力行為を容認することになりまた自救行為者の実力の程度によって救済の不公平をもたらすことになるので厳格な要件の下に肯定すべきと解されています。一般的に権利に対する侵害が存在し権利を回復及び実現するための実力行使の必要性、緊急性及び相当性が必要と解されています。自救行為は一般に35条の一部ないし実質的違法性阻却事由として正当化が認められています。
判例は自己の借地内に突出している隣家の軒先の一部を隣人の承諾がないまま切除することは建造物損壊罪の自救行為に当たらないので違法性は阻却されないとしています。
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