債権の効力
債権の内容をなす給付を債務者が任意に履行する場合にはその履行は正当化されます。これを債権の最小限度の効力といいます。
債権の内容をなす給付を債務者が任意に履行しない場合には債権者は裁判所に判決による履行を訴求でき履行の強制を求めることができます。履行の強制に限界がある場合や債権者が履行の強制を欲しない場合には債権者は損害賠償による金銭的満足を受けることになります。金銭的満足を受ける前提として債務者の一般財産が保全されることが必要であるためそのために債権者代位権及び詐害行為取消権の制度が規定されています。
第三者によって債権が侵害され債権の実現が阻止される場合には債権者は第三者に対し損害賠償請求や妨害排除請求をなしえます。
自然債務
自然債務とは債務者が任意に履行をしない場合に債権者が判決による履行を訴求しえない債務をいいます。徳義上の支払の約束にとどまる債務、消滅時効にかかった債務及び不法原因に基づく債務がその例です。
債務と責任
債務者に属する財産は債権の掴取力すなわち債権者が債務者の一般財産に対してかかっていくことのできる効力に服し債務の引当になるのが通常ですが責任を伴わない又は制限される債務もあります。このような債務は責任なき債務と呼ばれます。限定承認の場合や強制執行をしない旨の特約ある債務がその例です。責任なき債務は債務につき判決を訴求しうる点で自然債務と異なります。
責任だけあって債務のない法律関係を債務なき責任といいます。物上保証人や抵当不動産の第三取得者がその例です。
第三者の債権侵害
第三者の債権侵害について709条の要件をみたす限り不法行為責任が成立します。債権といえども権利である以上不可侵性を備えているからです。
妨害排除請求権について対抗要件を備えた不動産賃貸借の不動産賃借人は不動産賃借権に基づいて妨害排除請求権及び返還請求権を行使することができます。対抗力を備えていない賃借権の場合についての明文はありませんが賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使や占有権に基づく占有訴権により救済されえます。
履行遅滞の意義
412条1項は債務の履行について確定期限があるときは債務者はその期限の到来した時から遅滞の責任を負うと定めています。同条2項は債務の履行について不確定期限があるときは債務者はその期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負うと定めています。同条3項は債務の履行について期限を定めなかったときは債務者は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うと定めています。
履行遅滞とは履行が可能であるのに履行期を徒過した場合をいいます。
履行遅滞の要件
履行遅滞の要件は第1に債務が履行期に履行可能なこと、第2に履行期が到来したこと、第3に履行しないことです。債務者は免責事由の存在を主張及び立証しなければ責任を免れることはできません。
第1の要件について履行期に履行が不可能な場合には初めから履行不能の問題となり履行期を徒過した後に履行が不能となればその時から履行不能となります。
第2の要件について履行遅滞を生ずるには履行期が到来することが絶対に必要ですが履行期が到来しただけで必ず遅滞になるわけではなく債務の種類や履行期の種類により差異があります。
第3の要件について債務者に留置権、同時履行の抗弁権その他履行遅滞を正当化する事由がある場合には履行遅滞の責任を生じません。自己の債務についての履行の提供が必要です。
遅滞に陥る時期
確定期限のある債務については原則として期限到来時に遅滞に陥ります。ただし指図証券等の場合は証券の提示が必要であり取立債務の場合は債権者が必要な協力をすることが必要です。
不確定期限のある債務については期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時に遅滞に陥ります。
期限の定めのない債務については履行の請求を受けた時に遅滞に陥ります。法律の規定により生ずる債務は原則として期限の定めのない債務です。期限の定めのない債務は債務発生と同時に履行期が到来しているから債権者はいつでも履行を請求でき請求の到達した翌日から遅延損害金が発生します。
期限の定めのない消費貸借については催告から相当期間経過後に遅滞に陥ります。
不法行為に基づく損害賠償債務については不法行為時に遅滞に陥ります。不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の損害賠償請求権も不法行為による損害賠償債務に含まれるので不法行為時に発生しかつ遅滞に陥ります。
履行遅滞の効果
履行遅滞の効果として第1に遅延賠償すなわち遅滞によって生じた損害の賠償の請求が認められます。事情によっては填補賠償すなわち履行に代わる損害の賠償の請求も可能です。第2に本来の給付の請求が認められます。第3に契約から生じた債務については契約解除権が発生します。第4に履行の強制が認められます。第5に違約金の効力発生や担保権の実行が認められます。なお遅滞後は不可抗力による損害についても責任を負います。
履行不能の意義
412条の2第1項は債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは債権者はその債務の履行を請求することができないと定めています。同条2項は契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げないと定めています。
履行不能とは債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である場合をいいます。履行不能か否かは契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断されますがこの規律によって当事者の契約内容を変容させることは予定されておらずその意味で412条の2第1項は任意規定です。
履行不能の要件
履行不能の要件は履行が不能であることのみであり履行期の到来の有無を問いません。
不能の態様としては第1に物理的不能すなわち目的物の滅失によって履行が物理的に不可能となる場合があります。第2に法律的不能すなわち法律上の規定により履行が不可能となっている場合があります。第3に取引通念上の不能すなわち物理的には履行可能であるが取引通念上履行が不可能と判断される場合があります。不動産の二重譲渡がなされ一方の買主に所有権移転登記を済ませた場合に他方の買主に対する売主の登記義務及び引渡義務は取引通念上の不能の例です。
また不能には原始的不能すなわち契約成立時において債務の履行が不能である場合と後発的不能すなわち契約成立時には履行が可能でありその後に不能となる場合のいずれも含まれます。
原始的不能
債務の履行が原始的不能であっても契約は有効です。412条の2第2項は原始的不能の場合でも債権者に415条による損害賠償請求を認めています。したがって債権者は損害賠償請求のみならず契約の解除もなしえます。なお損害賠償の範囲は信頼利益すなわち契約が有効であると信頼したことによって被った損害に限らず履行利益すなわち債務の本旨に従った履行がなされていれば債権者が得られたであろう利益にまで及びます。
履行不能の免責事由
履行不能が債務者の責めに帰することができない事由によるものである場合には債務者は履行不能の責任を免れます。緊急避難の場合にも免責事由が認められます。
履行不能の効果
債権者はその債務の履行を請求することができません。
履行不能が債務者の帰責事由による場合には債務者は損害賠償責任を負います。債権者は債務の履行に代わる損害賠償すなわち填補賠償を請求できます。この場合に契約を解除しなくても填補賠償を請求できますが債権者は自己の反対給付の履行を免れません。解除して損害賠償を請求する場合には自己の反対給付を履行せずに填補賠償を請求することができます。また債権者は契約を解除することができます。
履行不能が当事者双方の帰責事由によらない場合には債務者は損害賠償責任を負いません。債権者は反対給付の履行を拒絶することができ契約を解除することもできます。
履行不能が債権者の帰責事由による場合には債務者は損害賠償責任を負いません。債権者は反対給付の履行を拒絶することができず契約を解除することもできません。
代償請求権
債権者は債務者がその債務が履行不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは代償請求権を取得します。
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