国政調査権の意義

62条は両議院は各々国政に関する調査を行いこれに関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができると規定しています。国政調査権とは国会又は議院が法律の制定や予算の議決等憲法上の権限はもとより広く国政特に行政に対する監督と統制の権限を実効的に行使するために必要な調査を行う権限をいいます。国政調査権は国民主権の実質化という観点から国民に対する情報の提供や資料の公開といった国民の知る権利に仕えるものと捉えられています。

国政調査権は通常議院の付託もしくは委任により特別調査会又は常任委員会によって実際に行使されます。

調査の諸形態

議院は国政調査に関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求できます。公務員のみならず私人に対しても証人として出頭や証言等を求めることができます。そして調査の実効を確保するためこれらの要求に応じない者に対し法的な制裁措置を設けることも認められます。議院証言法は正当な理由のない不出頭、書類不提出、宣誓や証言の拒絶に対し1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金を、偽証に対し3か月以上10年以下の拘禁刑を科しています。しかし要求以上の強制力を有する手段すなわち捜索、押収、逮捕などは許容していないと解されています。

国政調査権の法的性質

国政調査権の性質に関しては独立権能説と補助的権能説の対立があります。

A説は独立権能説であり、国政調査権は国会ないし議院の他の権能と並ぶ独立の権能であって特に議院の権能に関連することなく国政全般にわたって調査できるとします。その理由として、憲法は議院の権能に関連するものという明文上の限定を置いていないこと、国会は国権の最高機関としておよそ国政を統括し調整する地位にあり調査権はこの地位に基づく権能であることが挙げられます。

B説は通説であり補助的権能説です。国政調査権は議院に対して補助的に与えられた事実の調査権能であるとします。国会が保持する諸権能を国民の代表者が適切に行使するためには国政に関する十分な知識や正確な認識を獲得する必要があることから与えられたものです。その理由として、41条の規定は国会が国政の中心に位置する重要な国家機関であることを政治的に強調したにすぎず国会が内閣や裁判所に優位する地位を導くものではないこと、補助的権能説は欧米の通説及び判例でありこれと別異に解する理由はないことが挙げられます。

裁判所が言い渡した判決の量刑の当否を調査して問題となった事件において参議院法務委員会は独立権能説を援用し最高裁判所は補助的権能説に拠りながら法務委員会による調査権の濫用を主張しました。多くの学説が最高裁判所を支持したことから補助的権能説が通説となりました。

国政調査権の範囲と限界

補助的権能説を採ったとしても国会の権能特に立法権は広範な事項に及んでいるので、国政に関連のない純粋に私的な事項を除き国政調査権の及ぶ範囲は国政のほぼ全般にわたります。しかし補助的権能というその性質から調査の目的、対象、方法について制約に服するとされます。

目的上の制約

調査は立法、予算審議、行政監督、議院の自律権に関する事項など議院が保持する権能を実効的に行使する目的でなされなくてはなりません。

司法権との関係

議院は判決や裁判手続等であっても司法に関する立法や予算の審議等のために必要と判断するときは国政調査の対象となしえます。また過去の裁判事件あるいは現に裁判所に係属中の事件についても裁判所と異なる目的のためであれば訴訟と並行する調査も許されます。

もっとも調査が裁判官に対して及ぼす影響力を十分に配慮し慎重を期して司法権の独立を侵さないようにすることが必要です。裁判官の裁判活動に事実上重大な影響を及ぼすような調査は許されません。たとえば特定個人の有罪性の探究を唯一の目的とする調査や現に係属中の裁判事件につき裁判官の訴訟指揮や裁判手続を対象に行う調査は許されません。

判例は並行調査について、捜査機関の見解を表明した報告書ないし証言が委員会議事録等に公表されたからといって直ちに裁判官に予断を抱かせるものとすることのできないことは日常の新聞紙上に報道される犯罪記事や捜査当局の発表の場合と同様であってこれをもって裁判の公平を害することにはならないとしました。

裁判内容に対する批判的調査の可否については学説上争いがありますが一切許されないと解すべきです。裁判内容に対する批判的調査は裁判官の裁判活動を直接制限することになり司法権の独立の意義を没却すること、たとえ確定判決後の批判的調査であっても後続の事件を審理する裁判官に対して影響を与えることがその理由です。

行政権との関係

行政権の作用はその合法性と妥当性について全面的に議院の国政調査の対象となります。国会は国の唯一の立法機関として広汎な立法権を保持すること及び議院内閣制の下で国会に行政に対する監督と統制権が認められていることがその理由です。ある省庁自体のみならずその監督下にある独立の法人格を有する公益法人の活動についても調査することができます。

公務員の職務上の秘密に関する事項には調査権は及びません。しかし行政府は国会に従属するのが憲法の定める統治の基本原則であるから職務上の秘密は国家の重大な利益に悪影響を及ぼすものに限定されています。

検察権との関係

検察事務は行政権の作用に属するから原則として国政調査の対象となります。もっとも検察権は裁判と密接に関連するため準司法作用の性質を有し司法権に類似した独立性が認められなければなりません。それゆえ司法権に対するのと同様慎重な配慮が要請されます。

具体的には起訴や不起訴に関する検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられる調査、起訴事件に直接関連する事項や公訴の内容を対象とする調査、捜査の続行に重大な障害をきたすような方法による調査は違法ないし不当とされます。

判例は行政作用に属する検察権の行使との並行調査は原則的に許容されているものと解するのが一般であり例外的に国政調査権行使の自制が要請されているのはそれがひいては司法権の独立ないし刑事司法の公正に触れる危険性があると認められる場合に限定されるとしました。

人権との関係

国政調査権は国民の権利や自由を侵害するような手段及び方法で行使されてはなりません。

憲法上の基本的人権として保障されている自由すなわち思想良心の自由、信仰の自由、学問の自由、プライバシーの権利等の侵害に当たるときは議院証言法の正当の理由ある場合として証言等を拒むことができます。なお適法な調査に付随して個人の犯罪が明るみに出たとしても直ちに当該調査が国政調査権の範囲を逸脱したことにはなりません。

証言等を行うことによって本人が処罰されるおそれがある場合には黙秘権の行使が憲法上保障されます。

閣僚の議院出席の権利と義務

63条は内閣総理大臣その他の国務大臣は両議院の一に議席を有すると有しないとにかかわらず何時でも議案について発言するため議院に出席することができると規定しています。また答弁又は説明のため出席を求められたときは出席しなければなりません。

日本国憲法が採用する議院内閣制の下では、行政権の行使について国会に対して責任を負い法律案や予算等の議案を国会に提出する国務大臣には議院に出席して発言する機会を、議案を審議し内閣を監督する権能を有する国会には大臣の出席を求めその説明や答弁を直接聴く機会をそれぞれ与えることが必要です。そこで本条は内閣総理大臣その他の国務大臣が当該議院の議員である場合でもそうでない場合でも議院への出席権と出席義務をもつことを定めています。

なお秘密会にはその議院の国会議員でない限りその議院の特別な許可がなければ出席できません。

弾劾裁判所

64条は国会は罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設けると規定しています。司法権が裁判所に帰属することは国民の厳粛な信託に基づくものであり裁判官が国民の信託に反するような行為を行った場合には裁判官の身分を保障する必要はなく国民の意思に基づき罷免しうることになります。国会自身に弾劾裁判を行う権限を与えなかったのは国会から独立した特別の裁判所による方が公正かつ妥当な判定を得られるという配慮に基づくものと解されます。

弾劾裁判所は両議院の議員各7人の裁判員で構成されます。弾劾裁判所の裁判員を国会議員でない者から任命することはできません。弾劾裁判所は国会の機関ではなく独立した常設機関であり国会閉会中も活動することができます。なお弾劾裁判所のした裁判を両議院の議決で変更することができる旨の法律は違憲です。

弾劾裁判の手続

弾劾裁判は一定の罷免事由が存すると認められるとき訴追委員会の訴追に基づき弾劾裁判所により行われます。弾劾裁判はすべての裁判官が対象となります。

罷免の事由は職務上の義務に著しく違反し又は職務を甚だしく怠ったとき及びその他職務の内外を問わず裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったときです。なお国民審査で罷免するためには罷免事由は不要ですが公の弾劾で罷免するためには罷免事由が必要です。

訴追については訴えなければ裁判なしの原則に従って訴追の手続が設けられ訴追委員会がそれを行います。訴追委員会は両議院の議員各10人の訴追委員で構成されます。訴追委員会が両議院の議員で構成されることは憲法上の要請ではなく弾劾裁判所と異なります。訴追委員会は調査に際し証人の出頭及び証言並びに記録の提出を求めることができますが、これは議院の国政調査権に基づくものではありません。

弾劾裁判所は相当と認めるときは何時でも罷免の訴追を受けた裁判官の職務を停止することができます。ただし罷免の訴追を受けた裁判官に対し弾劾裁判所の審理期間中報酬の支払を停止することはできません。82条1項の裁判には弾劾裁判所による裁判は含まれません。弾劾裁判所の対審及び裁判の宣告は公開の法廷で行われなければなりませんがこれは憲法上の要請ではありません。

弾劾裁判所が罷免の裁判をするには審理に関与した裁判員の3分の2以上の多数の意見によりますがこれも憲法上の要請ではありません。裁判官は罷免の裁判の宣告により罷免されます。罷免の裁判を受けた裁判官に弾劾裁判所に対する資格回復の裁判の請求が認められています。

なお62条による国政調査と64条に基づく弾劾裁判制度の一環としての訴追委員会の調査とは区別されます。訴追委員会は両議院の議員によって構成されますが委員は独立して職権を行うのであり両議院に与えられた国政に関する調査とは性質が異なります。

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