被担保債権の範囲に関する補足
375条は他の債権者との関係で抵当権者の優先弁済権を制限したものであり債務者、物上保証人、抵当不動産の第三取得者又は設定者は元本債権のほか利息及び損害金の全額を弁済しなければ抵当権を消滅させることはできません。
利息その他の定期金が弁済期限到来後に登記されれば登記の時から375条の制約を超えて抵当権を行使することができます。遅延損害金について利率の約定がある場合には予定された利率による最後の2年分に限って抵当権の効力が及びます。遅延期間が弁済期後2年にならない場合にはその前の延滞約定利息と通算して2年分とされます。
抵当権の処分
376条1項は抵当権者はその抵当権を他の債権の担保としまた同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し若しくは放棄することができると定めています。同条2項は抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときはその処分の利益を受ける者の権利の順位は抵当権の登記にした付記の前後によると定めています。
抵当権者の投下資本流動化の要請に応えると同時に設定者の資金調達の要請に応える点に本条の趣旨があります。抵当権を被担保債権とともに処分する方法として抵当権付債権の譲渡及び抵当権付債権の質入れがあります。抵当権を被担保債権から切り離して処分する方法としては転抵当、抵当権の譲渡、抵当権の放棄、抵当権の順位の譲渡、抵当権の順位の放棄及び抵当権の順位の変更があります。
転抵当
転抵当とは抵当権者がその抵当権をもって他の債権の担保とすることをいいます。
転抵当の対抗要件について転抵当も物権であるから第三者にそれを主張するためには登記が必要です。転抵当権者相互間では付記登記の先後によります。債務者等に対抗するためには通知又は承諾が必要です。
転抵当権を実行するには転抵当権の被担保債権の弁済期が到来するだけでなく原抵当権の被担保債権の弁済期が到来することが必要です。競売代金についてはまず転抵当権者が配当を受け残金があれば原抵当権者にも配当されます。原抵当権者に残金が出る場合には原抵当権も自分の抵当権で競売ができますが残金が出ない場合には競売できないとするのが判例です。
抵当権の譲渡と放棄
抵当権の譲渡及び放棄とは同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその被担保債権と切り離して抵当権だけを処分することをいいます。
ここでの抵当権の放棄は一般的な物権の絶対的放棄ではなく一般債権者のためにする相対的放棄にすぎないので当該一般債権者の債権が弁済により消滅したときはその抵当権は放棄がなかったのと同じ状態に戻ります。
抵当権の譲渡又は放棄の受益者が抵当権を実行するには自己の債権の弁済期が到来しているだけでなく譲渡又は放棄をした抵当権者の債権の弁済期も到来している必要があります。抵当権の譲渡又は放棄の登記は受益者相互間の対抗要件にすぎません。
抵当権の順位の譲渡と放棄
抵当権の順位の譲渡及び放棄とは同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその順位だけを譲渡又は放棄することをいいます。抵当権の順位の譲渡及び放棄の登記は受益者相互間の対抗要件にすぎません。
抵当権の順位の譲渡及び放棄は処分者と受益者との間の処分契約によって行われ債務者、抵当権設定者及び中間順位の担保権者等の同意を必要としません。抵当権の譲渡及び放棄の場合も同様です。
抵当権の譲渡等の具体例
1番抵当権者Bの被担保債権が100万円、2番抵当権者Cの被担保債権が150万円、一般債権者Dの債権が200万円であり競売代金が200万円である場合を想定します。
抵当権の譲渡をBからDに行った場合にはDが100万円、Cが100万円、Bが0円となります。抵当権の放棄をBからDに行った場合にはBがDに対する関係で優先権を失いBの受けるべき100万円をBとDの債権額の比で分配します。
抵当権の順位の譲渡をBからCに行った場合にはCが150万円、Bが50万円、Dが0円となります。抵当権の順位の放棄をBからCに行った場合にはBとCの配当合計額200万円をBとCの債権額に比例して平等に分配します。
抵当権の処分の対抗要件
377条1項は抵当権の処分の場合には467条の規定に従い主たる債務者に抵当権の処分を通知し又は主たる債務者がこれを承諾しなければこれをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができないと定めています。同条2項は主たる債務者が通知を受け又は承諾したときは抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済はその受益者に対抗することができないと定めています。
本条は抵当権の処分の効力を債務者、保証人、設定者及びその承継人に対抗しうるには処分者による債務者に対する処分の通知又は債務者の承諾を要するとすることによりこれらの者が誤った弁済をしないよう配慮したものです。転抵当の場合には目的物の占有状態に変更は生じないので責任転質の場合のような責任は生じません。
抵当権侵害の概要
抵当権も物権であるから抵当権の内容が侵害されたときにはその排除を求める物権的請求権が生じまた不法行為に基づく損害賠償請求権が発生することもあります。しかし抵当権は本来目的物の利用を伴わず単に目的物の交換価値を把握するだけの価値権であるため所有権侵害のような典型的な物権侵害と異なった側面を有します。
通常の経済的用途に従った利用であれば目的物を第三者に用益させても抵当権侵害にはなりません。目的物に対する侵害があり価値が減少したとしても抵当権が被担保債権額について優先弁済を受けることができるのであれば損害があるとはいえません。抵当権者は抵当不動産に対する第三者の占有により賃料相当の損害を被るものではありません。
第三者による抵当権侵害と物権的請求権
第三者の抵当権侵害行為に対し抵当権に基づく差止請求が可能です。山林の伐採や伐木の搬出の差止めが認められています。
すでに搬出された伐木の返還請求について抵当権者への返還請求は否定されますが伐木を元の所在地に戻すように請求する権利は認められています。抵当権の対象となった不動産に設置された動産が搬出された場合にも抵当権者は第三者が即時取得しない限り不動産の元へ戻すことを請求できます。
法律上は無効であっても事実上抵当権の行使に障害となりうる登記がある場合には抵当権者は登記の抹消を請求できます。
第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは抵当権者は抵当不動産の所有者に対し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有しこれを被保全債権として423条の法意に従い所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができます。その場合目的不動産の所有者のための管理を目的として直接自己への明渡請求ができます。この場合抵当権者は抵当権に基づく妨害排除請求としてこの状態の排除を求めることもできます。
抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者に対しても抵当権者は抵当権に基づく妨害排除請求として排除を求めることができます。抵当権者は抵当権設定者に抵当目的物の維持管理が期待できない場合には占有者に対し直接自己への当該抵当不動産の明渡しを求めることができます。
抵当権侵害に対する損害賠償請求
損害が発生したといえるためには目的物の価値減少だけでは足りず価値減少のために被担保債権の弁済を受けえなくなったことを要します。
抵当権者による請求の可否について所有権者のみが損害賠償請求権を有し抵当権者はそれに物上代位をなしうるにとどまるとする見解と抵当権者及び所有権者ともに損害賠償請求権を有し両者は競合するとする見解があります。損害賠償請求をなしうる時期については抵当権実行前でも弁済期以後であれば損害賠償請求が可能です。
物上代位説も所有権者が第三者に対して損害賠償請求権を取得しない場合すなわち第三者が抵当権設定登記を不法に抹消したり抵当権の実行手続を不当に遅延させた場合などには抵当権者の第三者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を認めます。
設定者による抵当権侵害
設定者による抵当権侵害に対する救済方法として差止請求及び所在地への返還請求があり抵当権に基づく物権的請求権として認められます。
また期限の利益の喪失により抵当権者は直ちに被担保債権の支払請求ができるとともに残存する担保目的物に対して抵当権を実行できます。この場合設定者の故意又は過失を問いません。
増担保請求については増担保の特約があれば当然に増担保請求をなしえます。特約がなくても黙示の増担保特約を認めるなどして増担保請求を肯定しようとするのが学説の多数です。
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