共犯関係の解消の意義
共犯関係の解消とは共犯関係にある2人以上の者の一部の者が犯罪の完成に至るまでの間に犯意を放棄し自己の行為を中止してその後の犯罪行為に関与しないことをいいます。離脱とは離脱者による離脱の試みという事実行為を指す一方で解消とは離脱後の罪責を負わないという法的評価を指します。
共犯関係の解消の要件
共犯関係の解消が認められる根拠は離脱によって共犯行為の因果性が遮断される点に求められるのであり、この基準が実行の着手の前後で変わるわけではありません。実行の着手前であれば結果発生の危険性はそれほど高まっていないので積極的な結果防止措置をとるまでもなく因果性の遮断が認められる場合が多い一方で実行の着手後であれば結果発生の危険性が高まっているので積極的な結果防止措置をとらなければ因果性の遮断が認められない場合が多いということにすぎません。
したがって共犯関係の解消が認められるかどうかは実行の着手前後を問わず離脱者の行った行為と離脱後に生じた結果との間の物理的因果性と心理的因果性のいずれもが離脱の意思の表明、残余者による了承及び積極的な結果防止措置などによって遮断又は除去されたといえるかどうかという実質的な判断に尽きるものと解されています。
着手前の離脱に関する判例
裁判例は犯罪の実行を一旦共謀したとしてもその着手前に他の共謀者に離脱の意思を表明し他の共謀者もこれを了承して残余の者だけで犯罪を実行した場合には他の共謀者の実行した犯罪について責任を問うことはできないとしています。もっとも離脱しようとする者が共謀者団体の頭にして他の共謀者を統制支配する立場にある場合には共謀関係がなかった状態に復元しなければ共謀関係の解消がなされたとはいえないとしています。
判例は住居侵入及び強盗の共謀を遂げた上で犯行現場付近で待機していた者が強盗の実行に着手する前に立ち去った事案について当初の共犯関係が解消したということはできずその後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当であるとして住居侵入及び強盗致傷罪の共同正犯を認めています。
着手後の離脱に関する判例
判例は共犯者とともに被害者に暴行を加えた後に帰ると言って現場を去ったが共犯者に暴行をやめるよう求めるなどの措置をとらなかった事案について共犯者においてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかったのに格別これを防止する措置を講ずることなく成り行きに任せて現場を去ったにすぎないのであるから当初の共犯関係が解消したということはできずその後の共犯者の暴行も当初の共謀に基づくものと認めるのが相当であるとして傷害致死罪の共同正犯の成立を認めています。
共犯関係の解消の効果
共犯関係の解消が認められた場合には離脱者はその後の残余者による実行行為やこれによって発生した結果について罪責を問われません。
実行の着手前に共犯関係が解消された場合には離脱者は離脱後の残余者による実行行為及び結果について罪責を負いません。ただし離脱者に予備罪が成立する場合はその限りではありません。
実行の着手後であって既遂に達する前に共犯関係が解消された場合には離脱者は未遂犯の限度で罪責を負います。
さらに共犯関係の解消は結果的加重犯の場合にも問題となります。共同して傷害を行った者に共犯関係の解消が認められた場合にはその後に残余者が攻撃を継続して被害者を死亡させたとしても離脱者は死亡の結果について罪責を問われることはないので傷害罪の限度で罪責を負うにとどまります。
共犯関係の解消と中止犯の関係
共犯関係の解消は構成要件該当性の問題であるのに対し共犯の中止犯は犯罪の成立が確定した後の刑の減免の問題です。共犯関係の解消は共犯者の一部が共犯関係から離脱した後に残余者が結果を実現した場合において離脱者がどのような罪責を負うのかすなわち既遂か未遂か結果的加重犯が成立するかを判断するものです。これに対し共犯の中止犯は当該行為者が未遂犯の罪責を負うことを前提として43条ただし書による刑の必要的減免が適用されるか否かを判断するものです。
そのためまず構成要件該当性の問題である共犯関係の解消が認められるかどうかを検討します。その際に共犯者に任意性があるかどうかは問題となりません。その結果共犯者の罪責が未遂犯にとどまった場合には次に任意性などの中止犯の要件が満たされるかどうかを検討しこれが認められれば中止犯が成立することになります。
したがって共犯関係の解消が認められても中止犯が成立するとは限りません。逆に実行の着手後に共犯者の全員が任意にその犯罪を中止した場合のように共犯関係の解消が問題にならなくても中止犯が成立しうる場合もあります。
なお刑の必要的減免という中止犯の効果は一身専属的なものであるから共犯者のうち1人が自己の意思により犯罪を中止した場合には自己の意思により中止した者にのみ刑の必要的減免の効果が与えられます。
共犯と間接正犯の錯誤
間接正犯の故意で行為を行ったが被利用者が事情を知りつつ犯罪を実行した場合の利用者の罪責については間接正犯の実行の着手時期に関する見解によって結論が異なります。
利用者基準説のうち間接正犯説は被利用者が途中で情を知るに至ってもそれは因果関係に関する軽微な錯誤にすぎず特に考慮に値しないとして殺人罪の間接正犯の成立を認めます。
利用者基準説のうち教唆犯説は利用者の間接正犯の意思は実質上教唆犯の故意を内包することを前提としつつ結果は教唆犯の結果として生じている以上殺人既遂罪の教唆犯が成立するとします。
被利用者基準説は客観的には教唆犯の事実しか生じておらず間接正犯の事実は生じていないこと及び間接正犯と教唆犯はいずれも他人を通じて法益侵害又は危険を惹起する点で共通しているので軽い教唆犯の限度で重なり合いが認められることを根拠として殺人罪の教唆犯の成立を認めます。
なお教唆犯の故意しかなかった者が客観的に間接正犯の事実を生じさせた場合については間接正犯の実行の着手時期が問題となることはないので端的に38条2項の適用により軽い殺人既遂罪の教唆犯が成立するにとどまります。
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