承継的共同正犯の意義

承継的共同正犯とは先行者が特定の犯罪の実行に着手しまだ実行行為を全部終了しない間に後行者が共謀加担のうえ残りの実行行為に及んだ場合をいいます。このとき後行者は自身が関与する前の先行者の行為によって生じた結果についても責任を負うかが問題となります。

承継的共同正犯に関する学説

全面的肯定説は後行者は自分の介入以前に先行者が行った行為についても共同正犯の責任を負うとする見解です。先行者によって実現される状況を認識しその状況を積極的に利用して先行者と意思を連絡して残りの実行行為を共同して実行した場合に共同正犯が成立することを根拠とします。

全面的否定説は後行者は介入後の共同行為についてのみ責任を問われ介入前の事象については責任を負わないとする見解です。時間的に先行する行為事象に対しては因果的影響を与えることができないこと及び因果経過を予測できない先行事象について目的的行為支配を認めることはできないことを根拠とします。

限定的肯定説は原則として後行者は先行者のみが関与した事象について責任を負わないがが例外的に全体としての犯罪につき共同正犯が成立する場合があるとする見解です。限定的肯定説の中には積極的利用説と因果性説があります。

積極的利用説は後行者が先行者の行為及び結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用した場合には共同して犯罪を実現したといえるため後行者にも関与前の行為及び結果も含めて責任を問いうるとします。

因果性説は先行者の行為が後行者の関与後も効果をもち続けており後行者が先行者とともに違法な結果を実現したといえ後行者の行為と違法な結果との間に因果関係が存在する場合には結果に因果性を及ぼしているといえるため関与前の行為についても責任を問いうるとします。

承継的共同正犯の具体的あてはめ

強盗罪の場合として先行者が強盗の手段として被害者に暴行を加えた後に後行者が意思を通じて反抗を抑圧されている被害者から財物を共同して奪取した場合に全面的肯定説、積極的利用説及び因果性説からは強盗罪の共同正犯が成立し全面的否定説からは窃盗罪の共同正犯が成立するにとどまります。

先行者が強盗の手段として被害者を殺害した後に後行者が意思を通じて財物奪取を共同して行った場合に全面的肯定説からは強盗殺人罪の共同正犯が成立しますが積極的利用説及び因果性説からは強盗罪の共同正犯にとどまります。その理由として積極的利用説からは後行者は被害者の反抗抑圧状態を利用したにすぎず殺人の結果を利用したわけではないからと説明され因果性説からは殺人の結果に因果性を及ぼすことはあり得ないからと説明されます。全面的否定説からは窃盗罪又は占有離脱物横領罪の共同正犯が成立するにとどまります。

詐欺罪の場合として先行者が被害者にうそを言って現金の交付を要求した後に後行者が意思を通じて錯誤に陥っている被害者から現金を受領した場合に全面的肯定説、積極的利用説及び因果性説からは詐欺罪の共同正犯が成立し全面的否定説からは不可罰となります。

傷害罪の場合として先行者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に後行者が意思を通じて被害者の抵抗が困難になった状態を積極的に利用して暴行を加えた場合に全面的肯定説及び積極的利用説からは傷害罪の共同正犯が成立しますが因果性説及び全面的否定説からは暴行罪の共同正犯が成立するにとどまります。因果性説の立場からは傷害罪が問題となる事案では後行者が関与した時点で先行者の暴行による傷害の結果を左右し得ないため先行者の暴行及び傷害の事実は共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問う理由とはいえないとされています。

承継的共同正犯に関する判例

判例は共謀加担後の暴行が共謀加担前に先行行為者が既に生じさせていた傷害を相当程度重篤化させた場合であっても共謀加担前に先行行為者が既に生じさせていた傷害結果については後行者の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって被害者の傷害の発生に寄与したことについてのみ傷害罪の共同正犯としての責任を負うとしています。そして被害者が先行行為者の暴行を受けて負傷し逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ等の事実があったとしてもそれは共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないとしています。

また判例は先行者が被害者にうそを言って現金の交付を要求した後に被害者がだまされたふり作戦を開始しその後に後行者がだまされたふり作戦の開始を認識せずに共犯者らと共謀のうえ受領行為に関与した事案について後行者は詐欺を完遂するうえで欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与しているのでだまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず加功前の欺罔行為の点も含めた詐欺につき詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うとしています。

207条との関係

先行者が被害者に暴行を加えた後に後行者が意思を通じて暴行に加わったが被害者に生じた傷害が後行者の参加以降に生じたか特定できなかった場合について判例は他の者が先行して被害者に暴行を加えこれと同一の機会に後行者が途中から共謀加担したが被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたものとまでは認められない場合であってもその傷害を生じさせた者を知ることができないときは207条の適用により後行者は当該傷害についての責任を免れないとしています。さらに先行者に対し当該傷害についての責任を問い得ることは207条の適用を妨げる事情とはならないとしています。その理由として途中から行為者間に共謀が成立していた事実が認められるからといって同条が適用できなくなるとする理由はなくむしろ同条を適用しないとすれば不合理であって共謀関係が認められないときとの均衡も失するとしています。

片面的共同正犯

片面的共同正犯とは一方の共同者が他方の共同者の存在を知らずに犯罪を実行する場合をいいます。片面的共同正犯を認めるかどうかは共同実行の意思の内容として意思の連絡を必要とするかによります。意思の連絡を必要とすれば片面的共同正犯は否定され意思の連絡を不要とすれば片面的共同正犯は肯定されます。

判例は共同正犯については相互の意思連絡が必要であるとして片面的共同正犯の成立を認めていません。

過失犯の共同正犯

故意犯の共同正犯は一部実行全部責任の原則により共同者が引き起こした結果についても正犯としての罪責を負いますが故意犯の共同正犯における共同実行の意思がない過失犯においても共同正犯が認められるかが問題となります。

判例及び通説は過失犯においても共同正犯が成立するとして肯定説の立場に立ちます。判例は過失犯の共同正犯の成立要件が共同の注意義務に共同して違反したことと明らかにしています。共同の注意義務に共同して違反したこととは共同の注意義務に違反する行為を意思の連絡の下に共同して行うことをいいます。

共同の注意義務とは自己の行為から結果が発生しないように注意するだけでなく共同行為者の行為からも結果が発生しないよう注意し互いに結果を防止すべき義務が各人に課されていることをいいます。過失犯の実行行為は予見可能性を前提とした結果回避義務違反とされているのでその実行行為を共同して行う意思があれば共謀すなわち共同遂行の合意が認められます。

もっとも判例はそれぞれ分担する役割が基本的に異なっていた場合には本件事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできないとして過失犯の共同正犯が成立する余地はないとした事例もあります。

また裁判例は相互に交代して溶接作業を行っていた共同作業者が共同して火災の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があったにもかかわらずこれを怠り建造物を焼損した事案について相互利用及び補充による共同の注意義務を負う共同作業者間においてその注意義務を怠った共同行為があると認められる場合には過失犯の共同正犯が認められるとしています。

結果的加重犯の共同正犯

傷害の意思で共同して被害者に暴行を加えたところ被害者が死亡しいずれの行為によって被害者が死亡したのかが不明である場合に結果的加重犯の共同正犯が成立するかが問題となります。

判例は結果的加重犯の共同正犯の成立を認めています。判例によれば結果的加重犯は基本犯の実行行為と重い結果との間に因果関係があれば足り重い結果について過失は不要であるところ基本犯の共同実行と重い結果との間に因果関係が存在する以上共同して重い結果を惹起したといえるから共犯者の全員が重い結果について責任を負うのは当然とされます。

加重結果発生につき過失が必要であるとする説のうち過失犯の共同正犯肯定説からは結果的加重犯の共同正犯も肯定されます。過失犯の共同正犯否定説からは基本犯についての意思の連絡が認められることを理由に結果的加重犯の共同正犯を肯定する見解と重い結果についても共同実行の意思は観念しえないとして基本犯の限度で共同正犯が成立するにとどまるとする見解があります。

共同正犯と質的過剰

有責性の有無の判断や責任が阻却されるかどうかの判断は関与者ごとに個別的になされます。責任の本質である非難可能性は行為者の意思決定に向けられるものでありその意思決定は人ごとに異なるからです。

では違法性が阻却されるかどうかの判断についても関与者ごとに個別的になされるのか関与者ごとに違法性の有無が異なるという違法の相対性が認められるかが問題となります。学説上は共同正犯はすべて正犯とされるように一方が他方に従属する関係にないので狭義の共犯における要素従属性の議論も妥当しない結果として共同正犯者の各人につきそれぞれ違法性が阻却されるかどうかを個別に判断するとの考え方が有力に主張されています。

判例は共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は共同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討して決するべきであるとしています。具体的には侵害者の攻撃を予期しその機会を利用して共犯者に反撃を加えさせようとしていた者については積極的な加害の意思で侵害に臨んだものであるから侵害の急迫性を欠くとして過剰防衛の成立を否定し積極的な加害の意思がなかった共犯者については急迫不正の侵害が認められるとして過剰防衛の成立を認めています。

共同正犯と量的過剰

相手方の侵害に対し複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び相手方からの侵害が終了した後になおも一部の者が暴行を続けた場合において後の暴行を加えていない者について正当防衛の成否が問題となります。

判例は侵害現在時と侵害終了後とに分けて考察するのが相当であり侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって共謀の成立が認められるときに初めて侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し防衛行為としての相当性を検討すべきであるとしています。そして侵害終了後の追撃行為については新たに暴行の共謀が成立したとは認められないのであるから反撃行為と追撃行為とを一連一体のものとして総合評価する余地はないとして追撃行為に関与しなかった者を無罪としています。

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