窃盗罪の保護法益

窃盗罪の保護法益は占有を基礎付ける所有権その他の本権か占有自体かについて争いがあります。具体的には被害者が窃盗犯人から盗まれた財物を自ら取り戻すことが窃盗罪にあたるか、第三者が窃盗犯人から盗取する場合はどうか、賃貸借終了後に賃貸人が賃貸目的物を引き揚げてしまう場合はどうかという形で問題となり従来本権説と占有説とが対立してきました。

本権説は刑法が保護するのは民法によって保護される権利だけで十分であること、他人の財物は他人の所有物をいうこと及び242条は自己所有物につき特例を定めたものでそこにいう占有は権原ある占有を指すことをその理由とします。

占有説は現代社会では所有と占有の分離が顕著であり財産的秩序の保護に重点を置くべきであること、他人の財物は他人の占有物をいい他人の所有物に限られないこと及び242条は他人の占有の保護を示す注意規定でそこにいう占有は占有一般を指すことをその理由とします。

判例はかつては本権説の立場に立っていましたが現在では占有説の立場に立ち例外的に違法性阻却の余地を認めています。学説上もかつては本権説が通説でしたが判例の変化に対応し本権説と占有説の中間に線を引く中間説が有力となりました。拡張的本権説は242条の占有を一応理由のある占有その意味で適法な占有と解します。平穏占有説は占有概念を相対的に把握して一応平穏な占有のみが保護法益であると解します。

各説からの帰結として被害者が窃盗犯人から盗まれた財物を直後に自ら取り戻す場合については本権説及び中間説では構成要件に該当しませんが占有説では構成要件に該当し自救行為として違法性阻却の余地があります。第三者が窃盗犯人から盗品を盗取する場合についてはいずれの説でも窃盗罪が成立します。賃貸借終了後に賃貸人が賃貸目的物を引き揚げる場合については本権説では構成要件に該当しませんが中間説及び占有説では構成要件に該当します。

他人の財物

235条は他人の財物を窃取した者は窃盗の罪とし10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。

窃取の意義

窃取とは占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し目的物を自己又は第三者の占有に移すことをいいます。方法や手段に制限はなく欺罔行為を手段とする場合でも被害者の意思に反して財物の占有を取得すれば窃盗罪が成立しえます。

占有の意義

占有とは財物に対する事実上の支配をいい民法における占有に比べてより現実的な内容をもちます。自己のためにする意思に基づく占有に限らず他人のために占有する場合すなわち占有代理人の占有も含まれます。代理人による占有については代理人自体の直接占有がここでの占有となり本人の占有はここでの占有にはなりません。

占有の要素

具体的な事実上の支配の有無は支配の事実と支配の意思により判断されます。客観的な時間的又は空間的距離すなわち支配の事実が近い場合や長時間経過したり距離が離れたりしても意識的に置いた場合すなわち支配の意思がある場合は占有が認められやすくなります。

支配の事実については被害者の占有を離れた物でも第三者の事実支配が認められる場合があります。特に他人が管理する建物内で紛失した物について建物管理者に占有が認められる場合が多いですがその場所が閉鎖的か否かが影響します。

支配の意思とは財物を事実的に支配する意思をいいます。必ずしも個々の財物に向けられた特定的又は具体的な意思に限らず通常は自己の支配する場所内に存在する財物一般を対象とする包括的又は抽象的な意思であれば足ります。

財物に対する現実的握持があれば支配の事実が明白であり占有が認められます。もっとも占有が認められるためには必ずしも現実的握持を要さず支配の事実と支配の意思からみて事実上の支配が認められれば占有が認められます。

占有の有無

財物が事実的支配領域内にある場合については自宅内に存在するがその所在を失念した財物について主人に占有が認められています。飼い主の下へ帰る習性をもつ動物が飼い主の手元を離れた場合の当該動物についても飼い主の占有が認められています。一方で自然湖の一部を区切って養殖していた錦鯉が生簀から逃げ出した場合については未だ同湖内にあっても養殖者の占有は失われているとされています。

財物を一時的に置き忘れた場合については判例はバス待ちの行列の中で置き忘れてから約5分後約20メートル離れたところで気付いた場合や公園のベンチにポシェットを置き忘れてから約2分後約200メートル離れたところで気づいた場合について占有を認めています。一方で大規模な店舗の6階に置き忘れてから約10分後に地下1階にいた場合については占有を否定した裁判例があります。

財物を自らの所在地から離れた場所に置いた場合については看守者のいない場所に安置していた場合や事実上の自転車置場に無施錠で放置した場合について占有が認められています。

元々の占有者が財物の占有を喪失したとき当該財物が存在する支配領域内を支配している者に財物の占有が移る場合があります。ゴルフ場のロストボールについてゴルフ場管理者の占有が認められまた旅館内のトイレに遺失された財布についても旅館主の占有が認められています。一方で列車内に置き忘れた毛布については車掌等の占有は認められず村役場事務室内に納税者が遺失した金員についても村長の占有は認められていません。

海中に取り落した物件について落とし主の意思に基づきこれを引き揚げようとする者がその落下場所の大体の位置を指示し引揚げを人に依頼した結果当該物件がその付近で発見されたときは依頼者による現実の所持がなく現物を見ておらずかつ監視していなくても依頼者に占有が認められます。

占有の主体

占有の主体は自然人であることを要します。

死者の占有

死者には支配の事実も意思もなく常識的には死者に占有はありませんが死者から財物を奪うことが奪取罪を成立させるかが問題とされます。

当初から財物奪取の意思で殺害しその後に財物を奪う場合については死者の占有を問題にすることなく強盗殺人罪が成立します。強盗殺人罪は被害者の殺害結果が生じることにより既遂となるので財物奪取の時期は問題とならずまた強盗殺人罪の構成要件は殺害行為後に財物奪取が行われる場合も予定しているからです。

殺害後に初めて財物奪取の意思を生じ死者から財物を奪う場合について判例は窃盗罪が成立するとしています。窃盗犯人自身が殺害行為に関与した場合犯人の行為を全体的に考察して殺害行為と財物奪取行為が時間的及び場所的に近接した範囲内にある場合には被害者が生前有していた占有は死亡直後においてもなお継続的に保護されるとしています。

殺害者以外の第三者が死者から財物を奪う場合については窃盗罪は成立せず遺失物等横領罪が成立するにとどまります。被害者の死亡によって財物の占有は客観的にも主観的にも失われるからです。

学説上は甲説として死後一定の時間に限り全ての者に対して生前の占有が継続的に保護されるとする見解があります。この見解では殺害者以外の第三者が死者から財物を奪う場合も窃盗罪が成立します。乙説は判例の立場であり犯人の行為を全体的に考察する見解です。丙説は死者の占有を否定し殺害後に財物奪取の意思を生じた場合は殺人罪及び遺失物等横領罪が成立するとします。

占有の帰属

財物の占有に被害者のみならず行為者も関与している場合その占有が被害者に帰属するときは窃盗罪が成立し行為者に帰属するときは横領罪が成立するので占有が誰に帰属するかが問題となります。

共同占有

共同占有者が他の共同占有者の同意を得ることなく財物を自己の単独占有下に移転させた場合他者の占有を侵害するから窃盗罪が成立します。

上下主従の関係に立つ者の間の占有

上下主従関係にある者の間で下位者が上位者の財物を領得する行為について上位者の占有を侵害する窃盗罪か自己の占有する他人の物を領得する横領罪かが問題となります。

判例は原則として上位者に占有があるとして窃盗罪の成立を認めています。倉庫内に置いてある品物については倉庫係に占有はなく保管主に占有があるとされ貨物列車内に置いてある貨物については乗務中の車掌に占有はなく鉄道事業主に占有があるとされ店内の品物については店員は占有補助者にすぎず商店主に占有があるとされています。ただし下位者であっても上位者との間に高度の信頼関係がありその現実に支配している財物についてのある程度の処分権が委ねられている場合には下位者に占有を認めこれを領得すれば横領罪が成立します。

封緘物の占有

委託者が受託者に封緘物すなわち容器の中に物を収め封を施した物を預けた場合封緘物の占有が委託者又は受託者のいずれに属するのかが問題となります。

判例は封緘物全体については受託者に占有が帰属するが封緘物の内容物についてはなお委託者に占有が帰属するという二分説の立場に立っています。したがって受託者が封緘物全体を領得した場合には横領罪が成立する一方封緘物を無断で開封又は開錠して内容物のみを抜き取った場合には窃盗罪が成立します。封緘物それ自体は受託者が握持しており受託者には封緘物について一定の権限が与えられているので封緘物全体の占有は受託者にあるといえる一方封緘物は施錠によりその内容物の披見及び処分が禁止されている以上内容物に対する事実上の支配は依然として委託者に留保されているからです。

二分説に対しては内容物のみを抜き取った場合には窃盗罪が成立するのに封緘物の全体を領得すれば刑がより軽い横領罪が成立するというのは不均衡であるとの批判がなされていますが受託者が業務者である場合には窃盗罪よりも刑が重い業務上横領罪が成立するので刑の不均衡はないとの反論がなされています。施錠されていない鞄を預かった者が在中物を奪ったときには窃盗罪が成立するとした裁判例もあります。

支配関係が認められる占有

旅館が提供した丹前や浴衣等は宿泊客が着用中であっても旅館に占有があるとされています。

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