内閣総理大臣の職務
72条は内閣総理大臣は内閣を代表して議案を国会に提出し一般国務及び外交関係について国会に報告し並びに行政各部を指揮監督すると規定しています。内閣総理大臣が内部において内閣の統一を保持する任に当たるだけではなく外部に対して内閣を代表する権限を有することを明示したものです。本条に列挙された行為は例示であり一般に内閣の権能に属する事項を対外的に行う場合には内閣総理大臣が内閣を代表します。
議案を国会に提出する権限
議案とは議院の会議で議決されるべき原案として内閣により発案されるすべての案件の総称です。内閣法5条は内閣に法律案の提出権を認めていますが憲法には明文がないため本条の議案に法律案が含まれるとして憲法上内閣に法律案の提出権が認められるかが問題となります。
本条の議案に憲法改正案が含まれると解して内閣が憲法改正案を国会に対して提案することが憲法上認められるかも問題となります。内閣法5条は内閣総理大臣は法律案、予算その他の議案を国会に提出すると規定して憲法改正案を明示していません。
内閣による憲法改正案提出権の有無については4つの見解があります。A説は法律案の提出も憲法改正案の提出もいずれも否定します。法律案の提出が内閣に認められないとすれば憲法改正案についても同様に否定に解すべきことになるためです。B説は法律案の提出は肯定しますが憲法改正案の提出は否定します。憲法改正は極めて重大な行為であるから法律制定の場合と同様に考えることはできないためです。C説は法律案の提出も憲法改正案の提出もいずれも肯定します。憲法や内閣法が憲法改正案についての内閣の発案権を明定していないからといってそれを禁止する趣旨であるとはいえないこと、内閣に発案権を認めても議決をするのはあくまで国会であって国民投票の自主性が損なわれたり国民主権原理に矛盾するとはいえないこと、議院内閣制の現実に照らせば閣僚たる議員が代わって発案できるのであるから内閣の憲法改正の発案を否定しても意味がないことがその理由です。D説は法律案提出権と同様に憲法改正案提出権についても憲法に明確に規定がない以上立法府の判断に委ねられているとみるべきであるとして法律で定めることは可能とします。
一般国務及び外交関係について国会に報告する権限
一般国務及び外交関係とは内閣の職務に属するすべての行政事務をいいます。国会に対する内閣の連帯責任からは当然に内閣が国会に行政事務の運営に関して報告義務を有します。内閣総理大臣は内閣を代表してそれを行うものです。
行政各部を指揮監督する権限
行政各部の指揮監督も内閣の権限であり内閣総理大臣は内閣を代表してそれを行うものです。内閣法6条はこの趣旨を受けて内閣総理大臣は閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督すると規定しています。
行政権は内閣という合議体に委ねられていることから行政各部の指揮監督も内閣としての方針決定がないのに内閣総理大臣が独自の見解に基づいて指揮監督することはできないとされます。
もっとも流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため内閣総理大臣は少なくとも内閣の明示の意思に反しない限り行政各部に対し随時その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有します。判例は民間航空会社に対し特定機種の航空機の選定購入を勧奨するよう運輸大臣に働き掛けることはこの指示に当たるとしました。
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