教唆犯の意義
教唆犯とは人を教唆して犯罪を実行させた者をいいます。61条1項は人を教唆して犯罪を実行させた者には正犯の刑を科すると定め同条2項は教唆者を教唆した者についても同様とすると定めています。
教唆犯の要件
教唆犯の成立には人を教唆すること、被教唆者が犯罪を実行したこと及び教唆犯の故意が必要です。
教唆行為
教唆とは他人を唆して特定の犯罪を実行する決意を生じさせることをいいます。教唆行為とは他人に特定の犯罪を実行する決意を生じさせるのに適する行為をいいます。
教唆行為は黙示的又は暗示的な方法による場合でもよいとされています。もっとも被教唆者に対し特定の犯罪を実行する決意を生じさせる必要があり漠然と犯罪一般を唆すだけでは足りません。ただし犯罪の日時や場所や方法などを具体的に指示する必要はなく具体的に特定して指示したときでも被教唆者が必ずしもその指定通りの犯行をしたことを要しません。
被教唆者は特定した者でなければなりませんが教唆行為の当時実行者まで特定している必要はありません。また教唆行為の当時教唆に基づく犯罪行為の客体が存在しないときにもその客体の現出を条件として実行することを教唆することは可能です。
すでに犯罪の実行を決意している者は教唆行為の相手方とはなりません。この場合には犯罪の意思を強化するものとして幇助犯が問題となります。
判例はある者が犯罪を遂行するまでの意思を形成していなかったところ他の者がその犯罪の遂行を強く勧めたためこれを受け入れて犯罪を実行した場合には人に特定の犯罪を実行する決意を生じさせたものとして教唆に当たるとしています。
被教唆者が犯罪を実行したこと
教唆犯の成立には教唆行為の結果被教唆者が当該犯罪の実行を決意しその実行に着手することを要します。これは共犯従属性説の帰結です。教唆行為がなされ被教唆者が実行してもそれと教唆行為との間に因果関係が存在しないときは教唆犯は成立しません。
教唆行為は行われたが正犯者が実行の着手に至らなかった場合を教唆の未遂といいます。共犯従属性説からは教唆の未遂は不可罰です。なお正犯者が実行に着手したが結果発生に至らなかった場合は未遂犯の教唆であり未遂犯として処罰されます。
教唆犯の成否に関する問題
共同教唆とは2人以上の者が共同して教唆行為を行う意思で他人を教唆し犯罪を実行させた場合をいいます。共同者がそれぞれ教唆を実行した場合には各人につき教唆犯が成立します。共謀して一方を実行の担当者と決めたがその者がさらに他の者を教唆して犯罪を実行させた場合については共同教唆すなわち共謀共同教唆を認める立場と間接教唆とする立場が対立しています。
片面的教唆とは教唆者が教唆の故意で教唆行為を行ったところ被教唆者がその教唆行為があることを知らずに犯罪の実行を決意した場合をいいます。片面的教唆を認めるのが一般的です。教唆行為は特定の犯罪を実行する故意のない者に故意を生じさせることで足り被教唆者が教唆されているという事実を認識する必要はないからです。
過失犯に対する教唆とは他人の不注意を惹起して過失犯を実行させることをいいます。教唆行為の本質が他人をして犯罪の実行を決意させる点にあることから過失犯に対する教唆は認められず過失犯を利用する間接正犯として取り扱われるべきと解されています。
結果的加重犯の教唆犯とは教唆者が基本犯への教唆を行ったところ被教唆者が結果的加重犯を犯した場合をいいます。結果的加重犯は基本犯と結果との間に因果関係があれば足りるので判例及び通説は結果的加重犯の教唆犯の成立を認めています。
過失による教唆とは不注意によって他人に対し犯罪の実行を決意させることをいいます。過失による教唆には教唆の故意が認められないこと及び過失を処罰するためには特別の規定を要することから過失による教唆は認められないとする立場が一般的です。
未遂の教唆
未遂の教唆とは教唆者が被教唆者の実行行為を初めから未遂に終わらせる意思で教唆する場合をいいます。未遂の教唆の場合には教唆の故意には違法な既遂結果を実現させる意思がないことから教唆の故意が否定されるのではないかが問題となります。
甲説は教唆の故意の内容として被教唆者が実行行為に出ることの認識があれば足り結果発生の認識は不要であるとする見解です。教唆行為は修正された構成要件に該当する他人を犯罪の実行に至らせる行為であること及び共犯においては他人に実行行為を行わせる点が重要であることを根拠とします。この見解からは未遂の教唆は可罰的です。
乙説は教唆の故意の内容として結果発生の認識まで必要であるとする見解です。因果的共犯論によれば正犯と共犯とは犯罪として同じであるから正犯の場合と同様に共犯においても結果実現について故意のない行為を故意犯として処罰することはできないことを根拠とします。この見解からは未遂の教唆は不可罰です。
乙説によれば教唆者が結果発生を認識していなかったが被教唆者の実行行為により結果が発生した場合には結果発生につき過失犯の成否を認めうるにすぎません。
アジャン・プロヴォカトゥールとは犯人として処罰を受けさせる目的で初めから未遂に終わらせることを予期して一定の犯罪を教唆する者をいいます。教唆の故意の内容に関する見解の対立に由来し未遂犯の教唆とする立場と不可罰とする立場が対立しています。
教唆犯の諸類型
間接教唆とは教唆者を教唆した場合をいい61条2項に規定されています。間接教唆は教唆犯と同じように正犯に準じて処罰されます。
再間接教唆とは間接教唆者をさらに教唆することをいいます。再間接教唆及びそれ以上の間接教唆を連鎖的教唆又は順次的教唆といいます。
連鎖的教唆を教唆犯として処罰できるかについては明文がないため争いがあります。肯定説は61条1項の実行には教唆及び幇助という修正された構成要件の実行も含まれ61条2項の教唆者とは正犯者を直接教唆した者のみならずそれ以上の連鎖的教唆者も含むこと及び実質的に2人以上の教唆者を介在させることで教唆の責任を免れうるのは不合理であることを根拠とします。否定説は61条2項にいう教唆者とは同1項の教唆者すなわち正犯者を直接教唆した者を意味すること及び正犯者の背後関係を無限に追及することは法的確実性を害することを根拠とします。
幇助犯の教唆とは正犯を幇助する意思のない者に対して幇助の意思を生じさせかつ幇助行為に出させることをいいます。62条2項は従犯を教唆した者には従犯の刑を科すると定めています。
教唆犯の処分
教唆犯には正犯の刑を科します。もっとも拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆犯及び幇助犯は特別の規定がなければ罰しません。
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