牽連関係についての要件
留置権の成立要件の第1はその物に関して生じた債権であることすなわち債権と物の間に牽連関係があることです。この牽連関係は債権が物自体から発生した場合と債権が物の返還請求権と同一の法律関係又は事実関係から発生した場合に認められます。
物自体から発生した債権と認められる例
賃借家屋に賃借人が支出した必要費や有益費の償還請求権はその物に関して生じた債権と認められます。
不動産の買主が売買代金を支払わずにその不動産の所有権を第三者に譲渡した場合における代金請求権もその物に関して生じた債権と認められます。
仮登記担保権者から清算金の支払を受けるまでに目的不動産が仮登記担保権者から第三者に譲渡された場合における清算金支払請求権もその物に関して生じた債権と認められます。
寄託物の瑕疵により生じた損害賠償請求権もその物に関して生じた債権と認められます。
建物買取請求権の行使によって生じた建物代金債権もその物に関して生じた債権と認められます。判例は建物だけでなく敷地についても留置権の成立を認めています。
物自体から発生した債権と認められない例
賃借物を使用収益する債権はその物に関して生じた債権とは認められません。物自体を目的とする債権は物に関して生じた債権とはいえないためです。
造作買取請求権に基づく造作買取代金請求権と家屋との関係についても造作代金債権は家屋に関して生じたものではないことからその物に関して生じた債権とは認められません。
賃借人の敷金返還請求権と賃貸物との関係についても賃貸物の返還が先履行であることからその物に関して生じた債権とは認められません。
同一の法律関係又は事実関係から発生した債権
債権が物の返還請求権と同一の法律関係又は事実関係から発生した場合にも牽連関係が認められます。建物の売買契約が取り消された場合における不当利得による売買代金の償還請求権や偶然に靴を互いに取り違えてはき帰った場合の返還請求権がその物に関して生じた債権と認められる例です。
一方で牽連関係が認められないものもあります。A所有の甲土地を賃借したBが甲土地上に乙建物を建築しCに乙建物を賃貸した場合においてCが乙建物について必要費を支出した後Bの賃料不払を理由にAB間の賃貸借契約が解除されAがCに対して乙建物からの退去及び甲土地の明渡しを請求したときはCはBに対する必要費償還請求権を被担保債権とする留置権を主張して甲土地の明渡しを拒むことはできません。留置権は物の返還を拒絶し債務者に心理的強制を与えて間接的に債務の弁済を促進することを内容とする担保物権であるのでその物に関して生じた債権といえるためには留置権の成立時点すなわち被担保債権成立の時点において被担保債権の債務者と目的物の引渡請求権者が同一人である必要があるためです。
このほかにも牽連関係が否定される例として譲渡担保権者が目的物を第三者に売却した場合における設定者の有する債務不履行による損害賠償請求権、不動産が二重売買され第二の買主が先に所有権移転登記を経由したため第一の買主が所有権を取得できなくなったことで取得した売主に対する履行不能による損害賠償請求権、及び他人の物の売買による買主がその物の真の所有者から返還請求を受けた場合における売主の債務の履行不能による損害賠償請求権があります。
弁済期の到来
留置権の成立要件の第2は債権が弁済期にあることです。有益費の償還請求権について裁判所が物の回復請求者に相当の猶予期限を許与した場合には占有者はその物の留置権を失います。
他人の物の占有
留置権の成立要件の第3は留置権者が他人の物を占有していることです。他人とは債務者に限らず第三者でもよいとされています。たとえば物の賃借人が当該物を修繕に出した場合に修繕者としての留置権が成立します。なお商事留置権は債務者所有物に限定されています。物は動産でも不動産でもよく不動産のときにも登記を対抗要件とすることはありません。留置権は占有を成立要件とするためです。
占有が不法行為によって始まったものでないこと
留置権の成立要件の第4は占有が不法行為によって始まったものでないことです。当初適法に有していた占有権原を後に失ってもはや占有すべき権利のないことを知りながらなお他人の物を占有することは不法であるから295条2項の類推適用によりかかる占有者も留置権を行使することができません。
たとえば建物を買い受けてその引渡しを受けていた買主が売買契約が解除された後に建物に必要費や有益費を支出した場合や賃貸借契約解除後に賃借人が賃借物件に有益費を支出した場合には295条2項の類推適用により留置権を行使することができません。
ただし契約解除前に支出した有益費の償還請求権に基づく留置権の行使は解除の原因が債務不履行であったとしても妨げられません。契約解除前の占有は適法な占有であるためです。また適法に留置権を行使している間にさらに有益費を支出した場合はその支出分に関しても留置権が成立します。
留置的効力
留置権の中心的効力は留置的効力です。留置的効力とは被担保債権が弁済を受けるまでその物を留置しうることをいいます。債務者の債務は先履行ではなく留置権の消滅後にしか目的物返還を請求できないものではなく引換給付判決を得られることになります。
留置するとは目的物の占有を継続することです。目的物である土地の引渡しを拒むことは可能ですが当該土地の登記の移転を拒むことはできません。
借家人が賃貸借継続中にその家屋に費やした修繕費の償還請求権に基づいて賃貸借終了後留置権を行使しその家屋を継続使用することによって使用利益を収めたときはその収益は不当利得として目的物の所有者に返還しなければなりません。留置権者に収益を保有させる理由はないためです。
第三者に対する対抗力
留置権は物権であるから債務者のみならずそれ以外のすべての人に対してこれを主張することができます。
形式的競売
留置権には優先弁済権はありませんが一定の場合には競売の権利が認められています。これを形式的競売といいます。競売により得られた換価金は留置権者が所有者に返還する義務を負いますが所有者が債務者である場合には債権と相殺することによって事実上優先弁済を受けることとなります。
同時履行の抗弁権との関係
双務契約上の債権は留置権によっても同時履行の抗弁権によっても保護されることがあります。留置権も同時履行の抗弁権も公平の原則によるものです。
不可分性
296条は留置権者は債権の全部の弁済を受けるまでは留置物の全部についてその権利を行使することができると定めています。留置権者は留置物の一部を債務者に引き渡した場合においても特段の事情のない限り債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使することができます。
果実の収取
297条1項は留置権者は留置物から生ずる果実を収取し他の債権者に先立ってこれを自己の債権の弁済に充当することができると定めています。同条2項は果実はまず債権の利息に充当しなお残余があるときは元本に充当しなければならないと定めています。
留置権者は目的物に対する留置的効力しかなく目的物から優先弁済を受ける権利やそれを使用収益する権利をもたないとされていますが本条は留置権者の権利として留置権の目的物から生じた果実から他の債権者に優先して弁済を受けることを認めたものです。果実には天然果実のみならず法定果実も含みます。留置物を賃貸しその賃料を優先的に弁済に充当することも債務者の承諾があれば可能です。
善管注意義務と使用制限
298条1項は留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を占有しなければならないと定めています。善管注意義務を怠ったために損害を生じさせた場合は留置権者は債務者又は所有者に対して損害賠償責任を負います。
298条2項は留置権者は債務者の承諾を得なければ留置物を使用し賃貸し又は担保に供することができないと定めています。ただしその物の保存に必要な使用をすることはこの限りではありません。債務者と所有者が異なるときは債務者を所有者と読み替えます。
保存に必要な使用の例として家屋の賃借人が賃借中に支出した費用の償還請求権につき留置権を行使しその償還を受けるまで当該家屋に居住することは他に特別の事情のない限り保存に必要な使用に当たり賃貸人の承諾は不要です。一方で売買契約を解除された木造帆船の買主が解除前支出した修理費の償還請求権につき留置権を行使中に右船舶をもって遠距離に航海し貨物の運送業務に当たることは航行の危険性等から保存に必要な使用には当たりません。
消滅請求
298条3項は留置権者が善管注意義務又は使用制限の規定に違反したときは債務者は留置権の消滅を請求することができると定めています。注意義務違反があっても当然には留置権は消滅しません。債務者又は所有者は留置権者に注意義務違反があれば損害が生じなくても消滅請求できます。消滅請求をなしうる者の範囲は債務者及び所有者のほか留置物の第三取得者も含まれます。
消滅請求権の性格は留置権者の承諾を要しないで債務者の留置権者に対する一方的な意思表示によって留置権消滅の効果を発生させる形成権です。なお留置権者から留置物の使用につき承諾を受けた後に所有権を譲り受け対抗要件を備えた者は留置権者の目的物使用を理由とする消滅を請求することはできません。
費用の償還請求
299条1項は留置権者は留置物について必要費を支出したときは所有者にその償還をさせることができると定めています。同条2項は留置権者は留置物について有益費を支出したときはこれによる価格の増加が現存する場合に限り所有者の選択に従いその支出した金額又は増価額を償還させることができると定めています。ただし裁判所は所有者の請求により相当の期限を許与することができます。
留置権者が目的物を留置するのは被担保債権の弁済を得るためであり目的物の使用収益権を有しないのですから留置権者がその目的物について管理費用を負担するいわれはありません。そこで本条は留置権者が留置物に関して必要費や有益費を支出した場合にはそれを所有者から償還させることができるものと定めたものです。
留置権者の必要費償還請求権には果実収取の場合の関係規定はなく必要費に関して果実を収取し債権に充当しても全額についての償還請求ができます。また留置権者が必要費の償還請求権を被担保債権として建物を留置中に留置物についてさらに必要費を支出した場合はすでに生じている費用償還請求権とともに右建物について留置権を行使することができます。期限の許与は留置権者の善意悪意を問わず認められます。
留置権の行使と消滅時効
300条は留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げないと定めています。留置権の行使すなわち目的物を留置することそのものは当然に被担保債権を行使することにはならないため被担保債権の時効の完成猶予や更新事由にはなりません。
ただし留置権の抗弁を提出して被担保債権の存在を主張したときは裁判上の請求又は催告に当たり時効の完成猶予の効力が生じます。また留置物の使用又は賃貸に関し債務者が債権者に承諾を与えても時効の更新事由たる債務の承認があるとはいえません。
留置権は履行遅滞を正当化する事由となるので履行遅滞の責任を生じません。
担保の供与による留置権の消滅
301条は債務者は相当の担保を供して留置権の消滅を請求することができると定めています。留置権によって担保される債権の額は比較的僅少な場合が多く目的物に比べてわずかな債権額のためにその物を留置されることは債務者に酷であり留置物の代わりとなる相当な担保を得れば留置権者にも損失はないため債務者の相当な担保の提供による留置権の消滅が認められたものです。
担保は物的担保であると人的担保であるとを問いません。供してとは担保権設定契約の申込みや保証契約の申込みでは足りず現実に担保権設定や保証契約を締結することを要します。消滅請求は債務者の単独の意思表示でなしうりますが担保の提供には留置権者の承諾を要します。承諾を得られない場合は承諾に代わる判決を得て消滅請求しうります。
占有の喪失による留置権の消滅
302条は留置権は留置権者が留置物の占有を失うことによって消滅すると定めています。ただし298条2項の規定により留置物を賃貸し又は質権の目的としたときはこの限りではありません。
留置権の成立要件でありまたその存続要件である占有を失えば目的物を留置して弁済を促すという留置権の本質的作用が不能になるため留置権は占有の喪失によって消滅します。ただし占有回収の訴えを起こせば留置権を回復しえます。
留置権に基づく留置物の返還請求は認められません。また目的物が滅失することによって留置権も消滅した場合にはそれによって債務者が受けるべき金銭に物上代位はできません。
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