因果関係の錯誤の処理

因果関係の錯誤とは認識した客体に侵害が生じたが因果経過が予見したものと異なる場合をいいます。行為者が認識していた因果経過と実際に発生した因果経過に齟齬がある場合における錯誤の処理が問題となります。

因果関係の認識の要否については必要説と不要説が対立しています。

必要説は実行行為と結果との相当因果関係は構成要件的故意の内容として行為者の主観にも反映しなければならないとする見解です。必要説のうち通説的見解は法定的符合説の立場から行為者の予見した因果経過が相当因果関係の範囲内にあり現実の因果経過もまた相当因果関係の範囲内であれば両者は相当因果関係の範囲内で一致し故意を阻却しないとしています。すなわち錯誤が相当因果関係の範囲内にあれば故意は阻却されません。

必要説のうち因果関係の錯誤無用論は現実の因果経過につき相当因果関係が否定される場合は未遂にとどまり因果関係の錯誤論に入らないとする見解です。

不要説は犯罪行為の際に因果経過の概要を常に意識しているわけではないこと、実行行為と結果を認識しつつも相当因果関係を外れる因果経過を思い描いて犯行に及んだ場合に故意が否定されるわけではないこと及び因果関係の錯誤による故意の阻却を認めればその際には故意の未遂犯も成立しないことになるはずであるがその結論は不当であることを理由として因果関係の錯誤は行為者の主観的責任の問題ではなく因果関係論で処理すべきであるとする見解です。

遅すぎた構成要件の実現

遅すぎた構成要件の実現とは行為者が第一行為で結果を実現したと誤信し犯行を隠すために第二行為をしたところその第二行為で初めて結果が実現されたような場合をいいます。

まず行為の一個性について第一行為と第二行為との間に時間的及び場所的近接性が認められなければそもそも行為を一個とみる問題は生じません。次に第一行為と第二行為との間に時間的及び場所的近接性が認められたとしても意思の連続性がない場合には行為を一個とみることはできません。第一行為は殺人の故意ある行為ですが第二行為は殺人の故意ある行為ではないため意思の連続性を欠き行為を一個とみることはできず第一行為と第二行為は別々に評価されます。

次に結果に近い第二行為の犯罪の成否について検討すると第二行為と結果との間には因果関係が認められますが行為者は死体遺棄の故意で殺人の結果を発生させたことになるため抽象的事実の錯誤の問題となります。法定的符合説の立場に立つ場合殺人罪と死体遺棄罪は法定的範囲内において重なり合うことはないため故意犯の成立は否定され重過失致死罪が成立するにとどまります。

そして第一行為の犯罪の成否について検討すると第一行為が殺人の実行行為に当たることは明らかであり第一行為と死亡結果との因果関係が問題となります。判例はこの因果関係を肯定しています。因果関係を肯定した場合には因果関係の錯誤が問題となりますが必要説からは現実の因果経過も認識及び予見した因果経過もともに殺人罪の構成要件に該当し両者は相当因果関係の範囲内で一致するため故意は阻却されず第一行為には殺人罪が成立します。

以上より第一行為には殺人罪が第二行為には重過失致死罪が成立し後者は前者に包括吸収され殺人罪一罪が成立します。

早すぎた構成要件の実現

早すぎた構成要件の実現とは予定した第二行為により結果を発生させるつもりがすでに第一行為により結果を生じさせてしまった場合をいいます。

まず第一行為が実行行為といえるかが問題となります。この点については第一行為と第二行為とが時間的及び場所的に密接した一連の行為といえるか否かで実行行為性を判断する見解が有力です。第一行為の実行行為性を認めることができない場合は予備行為から結果が生じたことになり過失致死罪が成立しうるにとどまります。

第一行為に実行行為性が認められた場合には因果関係の錯誤の一種として処理されます。

判例は被害者を昏倒させる第一行為が第二行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったこと、第一行為に成功した場合にそれ以降の殺害計画を遂行するうえで障害となるような特段の事情はなかったこと及び第一行為と第二行為との間の時間的場所的近接性などに照らして第一行為は第二行為に密接な行為であり第一行為を開始した時点ですでに殺人に至る客観的危険性が明らかに認められるからその時点で殺人罪の実行の着手があるとし第二行為の前の時点で被害者が第一行為により死亡していたとしても殺人の故意に欠けるところはなく殺人既遂罪が成立するとしています。

アプリの紹介

過去問を一文一問形式で解けるアプリを開発しました。

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法試験 短答式試験 過去問 問題集

司法予備試験の過去問を1問1答形式でアプリにしました。 効率的な学習をサポートする独自の機能があります。 1. 一問一答形式:テンポよく学習を進められます 2. 音声読み上げ機能:問題文と解説を聴いて学習効率アップ 3. 学習記録の自動管理:復習日、回数、正解率を簡単チェック 通勤中や隙間時間を有効活用し、効果的に試験対策ができます。 司法予備試験合格への第一歩、今すぐダウンロード! 利用規約 https://www.apple.com/legal/internet-services/itunes/dev/stdeula/

App StoreGoogle Play