最高裁判所の規則制定権の趣旨
77条は最高裁判所に規則制定権を認めています。司法に関する事項につき国会や内閣の干渉を排除して裁判所の自主独立性を保障しまた裁判実務に精通する裁判所の専門性を尊重するために認められたものです。規則制定権は憲法によって認められたものであって法律によってこれを奪うことは許されません。最高裁判所規則は裁判官のみならず弁護士や訴訟関係人、裁判所職員などを拘束する法であり実質的意味の立法作用であって国会による立法権の独占に対する憲法上の例外です。
規則制定権の範囲
規則制定権の範囲としてはまず訴訟に関する手続に関する事項があります。これは民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟手続の他に厳密な訴訟ではない非訟事件手続、家事審判や調停手続、少年保護処分手続をも含むと解されています。ただし裁判所の組織、構成、管轄権等の事項は訴訟に関する手続に関する事項には含まれません。裁判所の組織等に関する事項は国家権力機構の基本に関する事柄であり国会が法律で定めるべきであるためです。
弁護士に関する事項については弁護士の職務、資格、身分などは職業選択の自由の保障との関係から法律によるべきであるため弁護士が裁判所に関係する限度で最高裁判所規則による規制が可能と解されています。
裁判所の内部規律に関する事項とは裁判所内部の管理や監督に関する事項をいいます。司法事務処理に関する事項とは裁判事務そのものではなくそれに付随し又はその前提として定めておかなければならない事項をいいます。
さらに77条1項所定の事項以外でも法律の委任があればその委任事項につき規則で定めることができます。
規則事項と法律事項の関係
77条に定める事項を法律によっても定めることができるかについて争いがあります。
規則専属事項説は77条1項の事項は最高裁判所の専属的な所管事項であるから法律を制定しても無効であるとします。裁判所の独立性や自律性を確保するという77条1項の趣旨を重視すべきであることがその理由です。
競合事項説は77条1項の事項については法律でも定めることができるとします。国会を唯一の立法機関とする41条や刑罰に関して法律主義を定める31条等の規定があること及び憲法上規則事項について法律で定めることを禁止する規定がないことがその理由です。
折衷説は訴訟に関する手続事項と弁護士に関する事項については法律で定めることができるが裁判所の内部規律事項と司法事務処理事項は規則の専属事項であるとします。
判例は法律により刑事に関する訴訟手続を規定することは77条に違反しないとしており競合事項説に立っているとみられています。
最高裁判所規則と法律の効力関係
競合事項説又は折衷説に立つ場合に規則と法律が抵触したときの効力関係が問題となります。
規則優位説は矛盾する限度で法律の効力が否定されるとします。法律に規則を排除する優越的効力を認めれば裁判所の独立性や自律性の確保という規則制定権の趣旨が没却されることがその理由です。
同位説は規則と法律が矛盾する場合は後法が前法を廃すの一般原則が適用され後に成立したものが有効となるとします。
法律優位説は通説であり矛盾する限度で規則の効力が否定されるとします。国民の代表者によって構成される国会は国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であるからその制定する法律は憲法の下では最も強い形式的効力を有するはずであることがその理由です。
司法行政監督権
司法行政監督権は裁判所自身に与えられその自主的な運営に委ねられています。77条が最高裁判所に規則制定権を認めていること及び司法権に関する第6章全体の趣旨がその根拠です。なお司法行政権はすべて最高裁判所が行うわけではなく下級裁判所が司法行政事務を行うことも認められています。
裁判官の身分保障の趣旨
78条は裁判官の罷免を限定し行政機関による裁判官の懲戒を禁止しています。76条3項は裁判官の職権の独立を保障しますがそれを確実なものとするためには裁判官の身分保障が重要となるためです。
78条前段の前半は裁判官が心身の故障のため執務不能となった場合でも裁判の手続により裁判所が罷免の決定を行うとすることによって裁判官の身分に対する外部からの不当な圧力を排除することを目的としています。後半は裁判官の地位も究極的には国民の意思に根拠を有する以上裁判官が国民の信託に反する行為を行った場合には裁判官の身分を保障すべきでないことから弾劾による裁判官の罷免を認めたものです。
78条後段については懲戒の権限は司法府の自主性を尊重して裁判所自身に与えられており行政機関による懲戒は禁止されます。立法機関による懲戒も禁止されると解されています。
裁判官の罷免
罷免とは本人の意思に反して免官することをいいます。78条により裁判により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合と公の弾劾による場合のほかは裁判官は罷免されないという保障が与えられています。
心身の故障のために職務を執ることができない場合とは裁判官の職務を遂行することができない程度の精神上の能力の喪失又は身体の故障であって一時的でなく相当長期にわたって継続することが確実に予想されるものをいいます。
裁判官が在職中に任命欠格事由に該当するに至った場合については見解が分かれます。A説は通説であり改めて弾劾の手続をとるまでもなく裁判官は当然に失職するとします。裁判所の判決によって拘禁刑以上の刑に処せられてもさらに弾劾の手続を要するとするのは常識に反すること及びこのように解しても裁判官の身分保障を危うくするとは考えられないことがその理由です。B説は当然には失職せず改めて弾劾の手続を必要とするとします。78条が裁判官の罷免事由を二つに限っていることからこれ以外に裁判官がその意思に反して職を失う場合を認めることは78条の趣旨に反すること及び裁判官の任命欠格事由は法律によって定められているから法改正によって欠格事由が拡大される可能性もありその場合にもすべて当然失職と解するのは妥当性を欠くことがその理由です。
裁判所法48条は裁判官がその意思に反して免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはないと規定しており広く78条における身分保障の趣旨を及ぼしています。
裁判官の懲戒
裁判官も裁判官としての身分関係の秩序を維持するために職務上の義務に違反し若しくは職務を怠り又は品位を辱める行状があったときは懲戒に服します。ただし懲戒として罷免は許されません。裁判官の罷免は憲法上78条前段と79条2項に限定されているためです。
最高裁判所の構成
最高裁判所は長たる裁判官すなわち最高裁判所長官及び法律の定める員数のその他の裁判官すなわち最高裁判所判事で構成されます。現在の最高裁判所は14人の最高裁判所判事に長官を加えた合計15人の裁判官によって構成されています。法律を改正して裁判官の員数を変更することは違憲ではありません。
最高裁判所裁判官の任命
最高裁判所長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命し最高裁判所判事は内閣が任命します。天皇による長官の任命は形式的かつ儀礼的行為であるから長官を含むすべての最高裁判所裁判官の選任は内閣が決定権をもつことになります。これにより国民を代表する国会の多数派を背景にした内閣が最高裁判所の組織にある程度の影響を及ぼすことができ権力分立上の均衡が保たれます。
最高裁判所裁判官には任期は定められていません。ただし定年はあり年齢が70年に達した時は退官します。
最高裁判所裁判官の報酬
最高裁判所裁判官は定められた額の報酬を受けます。個々の裁判官の報酬を減額するのではなく財政上の理由等により法改正して一般的に全裁判官の報酬を減らすことができるかについて争いがあります。この点について立法や行政部の公務員とともにするのであれば許されるという見解があり実際にこのような措置がなされた例があります。裁判官は病気により長期にわたり欠勤した場合でもその報酬は減額されません。また裁判官は懲戒処分として戒告及び過料の処分を受けることはありえますが減給処分は受けません。過料は報酬の減額に当たりません。弾劾裁判所において審理を受けている期間中でも報酬支払が停止されることはありません。
最高裁判所の法廷構成
最高裁判所の審理及び裁判は大法廷又は小法廷で行われます。大法廷は最高裁判所裁判官15人全員の合議体であり小法廷は5人の裁判官の合議体です。扱う事案の性質に応じてこれらのどちらかの法廷で審理と裁判が行われます。
最高裁判所裁判官の国民審査
国民審査制度の趣旨は裁判官の任命を国民の民主的コントロール下に置くことにあります。公務員の選定及び罷免に関する国民固有の権利の具体的な現れです。
国民審査の法的性質については争いがあります。判例及び通説は国民審査制度の実質はいわゆる解職の制度すなわちリコール制度と捉えています。79条3項が国民審査の法的効果として当該裁判官が罷免されることを定めていること及び任命後審査を受けるまでの裁判官の地位につき何ら憲法上規定がないことは任命行為により任命は完結していることの現れであることがその理由です。これに対しては国民が積極的に罷免手続を開始できないのにリコール制度といえるかは疑問であるとの批判があります。
他に不適任者の罷免と適任者への民意による地位強化と捉える立場や罷免制度であると同時に任命の事後審査と捉える立場があります。
国民審査の方法について現行法は審査に付される裁判官の氏名が印刷された投票用紙に投票者が罷免を可とする裁判官の欄にバツ印を記載し罷免を可としない裁判官については何らの記載もしないという方法を定めています。この方法は罷免の可否がわからず何の記入もせずに投票した者に罷免を可としないという法的効果を付与するもので事実上棄権の自由を認めない点で違憲ではないかが問題とされています。判例は国民審査制度の実質はいわゆる解職の制度とみることができるから白票を罷免を可としない票に数えても思想良心の自由に反しないとしましたが白票をすべて罷免不可の票として数えるのは不合理であるとの批判がされています。
最高裁判所判事に任命されすでに国民審査を受けた者が最高裁判所長官に任命された場合に再度の国民審査を必要とするかについては必要説と不要説があります。
在外邦人国民審査権訴訟違憲判決
在外国民に最高裁判所裁判官の国民審査権の行使が認められていないことについて判例は次のように判示しました。
国民審査の制度は国民が最高裁判所の裁判官を罷免すべきか否かを決定する趣旨のものであり憲法は主権者である国民の権利として審査権を保障しています。審査権が国民主権の原理に基づき憲法に明記された主権者の権能の内容である点において選挙権と同様の性質を有することに加え憲法が衆議院議員総選挙の際に国民審査を行うこととしていることにも照らせば憲法は選挙権と同様に国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当です。
国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければなりません。そのような制限をすることなしには国民審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められる場合でない限りやむを得ない事由があるとはいえません。
在外選挙制度が創設され現に複数回にわたり国政選挙が実施されていることも踏まえると在外審査制度を創設すること自体について特段の制度的な制約があるとはいい難いとされました。国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは15条1項、79条2項、3項に違反するとされました。
下級裁判所裁判官の任命
下級裁判所裁判官は最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命します。裁判所内部だけで任命がなされることで司法の独善がもたらされることを防止するとともに内閣による恣意的かつ党派的な任命による司法権の独立の侵害を防ぐことを考慮した結果です。
指名の方式については憲法上は1人の氏名の記載すなわち単記指名方式でも2人以上の氏名の記載すなわち複数指名方式でもいずれでもよいとする立場が有力です。ただし複数指名方式では内閣の裁量の比重が大きくなるため司法権の自主性尊重の観点から単記指名方式が望ましいとする見解も主張されています。
最高裁判所が実質的に指名した者の任命を内閣は拒否できるかについてA説は内閣は任命を拒否することもできるとし実質的に裁判所内部だけで任命することによる司法の独善化を避けるべきであることがその理由です。B説は内閣は任命を拒否することはできないとし憲法が全体として司法権の独立の強化に配慮していること及び裁判官の任命資格が法律でかなり厳格に制限されていることがその理由です。
下級裁判所裁判官の任期と再任
下級裁判所裁判官の任期は10年であり再任制を採用しています。再任されることができるの解釈については三つの見解があります。
A説は自由裁量説であり裁判官は任命の日から10年を経過すれば当然に退官し再任は新任と全く同じであり任命権者は自由裁量によって再任又は不再任を決定できるとします。任期制度は裁判官の身分保障からくる人事の停滞と独善化の弊害を打破し不適任者を排除するものであることがその理由です。これに対しては裁判官の身分保障が著しく不安定になるとの批判があります。
B説は羈束裁量説であり特段の事由なき場合は当然再任されるとします。10年の任期の定めは期間ごとに特段の事由ある不適格者を排除するために設けられたものにすぎないことがその理由です。
C説は身分継続説であり78条に規定されるような身分保障の例外に該当しない限り10年の任期経過後も裁判官の身分は継続するのを原則としただ10年を経過するごとにその適格性をチェックするにすぎないとします。裁判官の任期は国会議員等の任期とは本質的に異なりその前提には身分継続の原則があることがその理由です。これに対しては身分保障の趣旨には合致するが文理的な読み込みとしてかなり無理があるとの批判があります。
下級裁判所裁判官の定年は年齢65年に達した時ですが簡易裁判所裁判官だけは70年と定められています。下級裁判所裁判官はすべて定期に相当額の報酬を受けこの報酬は在任中減額することができません。
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