不当利得制度の意義

不当利得制度は形式的かつ一般的には正当視される財産的価値の移動が実質的かつ相対的には正当視されない場合に公平の理念に従ってその矛盾の調節を試みる制度です。

不当利得制度の根拠を正義公平の理念に求める通説とは異なりより具体的で多元的な根拠を求め類型ごとに要件と効果を明らかにすべきとする見解が有力です。この類型論では不当利得を給付利得と侵害利得に分けそれぞれの解釈論を導く判断基準が異なるとされています。

不当利得の要件

703条は法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受けそのために他人に損失を及ぼした者はその利益の存する限度においてこれを返還する義務を負うと定めています。不当利得の成立要件は他人の財産又は労務によって利益を得たこと、他人に損失を与えたこと、受益と損失との間に因果関係があること及び法律上の原因がないことです。

他人の財産又は労務によって利益を得たこと

他人の財産には既に他人の財産に帰属しているものに限らずまだ帰属してはいないが当然その他人に財産として帰属すべきものを含みます。利益には財産が積極的に増加した場合すなわち積極的利得と本来生じるはずであった財産の減少を免れた場合すなわち消極的利得を含みます。債務者が単に債務の履行をしないこと自体は利得とはいえません。

他人に損失を与えたこと

不当利得は個人間の利得と損失との均衡を図る制度であるため一方に法律上の原因のない利得があっても他方にこれに対応する損失がなければ不当利得とはなりません。損失は積極的減少と消極的減少を含みます。権限なく他人の家屋を勝手に利用した場合には家屋の所有者が自ら使用収益しえたか又はそれを欲したかにかかわらず家賃相当額の損失が認められます。

債権者でない者に対して弁済をしたときであってそれが受領権者としての外観を有する者に対する弁済とも認められない場合には真の債権者に対して弁済をしたかどうかにかかわらず債務者には損失があるとされています。

受益と損失との間の因果関係

社会通念上損失と受益との間に因果関係があればよいとされています。受益と損失との間に第三者の行為が介在する場合であっても社会通念上財産的価値の移動が利得者と損失者との間に行われたと認められる限り不当利得の成立は肯定されます。

騙取金による弁済については他から金員を騙取した者がその金員を他の債権者に対する債務の弁済に充てた場合に社会通念上被騙取者の金銭で他の債権者の利益を図ったと認められるだけの連結がある場合には不当利得の成立に必要な因果関係があるとされています。

転用物訴権については他人の所有物を賃借していた者がそれを修繕業者に修理させた場合に修繕業者のした給付を受領した者が所有者でなく中間の賃借人であることは修繕業者の損失及び所有者の利得の間に直接の因果関係を認めることの妨げとはならないとされています。

法律上の原因がないこと

法律上の原因がないとは正義公平の理念からみて財産価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的かつ相対的な理由がないという意味です。

騙取金による弁済については騙取金により債務の弁済を受けた債権者に悪意又は重大な過失がある場合にはその金員の取得は被騙取者に対する関係では法律上の原因がないとされています。

転用物訴権については請負人が賃借人との間の請負契約に基づき賃借物を修繕したところ賃借人が無資力になったため賃借人に対する請負代金債権が無価値である場合において賃貸人である所有者が法律上の原因なくして利益を受けたといえるのは賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約を全体としてみて賃貸人が対価関係なしにその利益を受けたときに限られるとされています。

不当利得の効果

返還義務の範囲は受益者の善意と悪意で区別されます。法人の善意又は悪意は法人の機関の善意又は悪意によって決せられます。

善意の受益者はその利益の存する限度すなわち現存利益の限度で返還義務を負います。現存利益とは受けた利益が原形のまま存在することではなく利益が原物のままあるいは形を変えて残っている場合を意味します。利得者たる銀行が利得金を運用してあげた利益については社会通念上損失者が運用してあげえたであろうと認められる部分は現存利益として返還されるべきとされています。損失者の被った損害額より現存利益が大きい場合には損害額が利得返還の限度となります。受益者は代替性のある物を第三者に売却処分した場合には原則として売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負います。

悪意の受益者は受けた利益に利息を付して返還し損害があれば損害賠償義務も負います。704条後段の規定は悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず悪意の受益者に対して不法行為責任と異なる特別の責任を負わせたものではないとされています。受益者は当初善意であってもその利得に法律上の原因がないことを認識した後は以後悪意の受益者として扱われます。したがって受益者が悪意になった後に利益が減少又は消滅しても不当利得返還義務の範囲は減少又は消滅しません。

その他の不当利得に関する問題

消費貸借契約の借主が貸主に対して貸付金を第三者に給付するよう求め貸主がこれに従って第三者に対して給付を行った後借主がその契約を取り消した場合には貸主からの不当利得返還請求に関しては借主は特段の事情のない限り貸主の第三者に対する給付によりその価額に相当する利益を受けたといえるとされています。

双務契約が無効又は取り消された場合の返還義務相互に関しては同時履行の関係が認められます。

抵当権者は不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかった場合であっても債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対してその者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を請求することができます。配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではなく利得に法律上の原因があるということはできないためです。

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