消滅時効の意義
消滅時効とは一定の財産権について権利不行使という事実状態が一定期間継続した場合にその権利を消滅させる制度です。
消滅時効の要件は事実状態の存在すなわち権利の不行使、事実状態が一定期間継続すること、完成猶予及び更新のないこと並びに当事者の援用です。
債権の消滅時効の起算点
166条1項は債権の消滅時効について客観的起算点と主観的起算点の二元的な制度を採用しています。主観的起算点から進行する消滅時効だけでは債権者の認識がない限り永遠に消滅時効が完成しないこととなり妥当でないとされたためです。
客観的起算点
消滅時効の客観的起算点は権利を行使することができる時です。権利を行使することができる時とは権利の行使に法律上の障害がなくその性質上その権利行使が現実に期待できる時をいいます。単なる事実上の障害たとえば債権者の病気や不在又は権利進行時期の不知といった個人的な事情は時効の進行を妨げません。
確定期限の定めのある債権は期限到来時から進行します。不確定期限の定めのある債権も期限到来時から進行します。期限の定めのない債権は原則として債権成立時から進行します。不当利得返還請求権のような法定債権は原則として期限の定めのない債権となります。返済の時期を定めない消費貸借に基づく返還請求権は催告があるときは催告後相当期間経過後から、催告がないときは契約成立から相当期間経過後から進行します。
債務不履行に基づく損害賠償請求権は本来の債務の履行を請求しうる時から進行します。ただし進行性疾患で発病までに長時間を要する場合の使用者の安全配慮義務違反による損害賠償請求権については損害が発生した時すなわち最終の行政上の決定を受けた時から進行します。
不法行為に基づく損害賠償請求権の客観的起算点による消滅時効は不法行為の時から進行します。主観的起算点による消滅時効は被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時に進行します。継続的不法行為に基づく損害賠償請求権の主観的起算点による消滅時効は被害者が各損害を知った時から個別に進行します。
期限付又は停止条件付の債権は期限到来時又は条件成就時から進行します。解除条件付債権は債権の成立時から進行し条件成就未定の間も進行します。不作為債権は違反行為のなされた時から進行します。
期限の利益喪失約款付の債権については1回の不履行があっても各割賦金につき約定弁済期から順次消滅時効が進行します。債権者が特に残額債務の弁済を求める旨の意思表示をした場合に限りその時から全額について消滅時効が進行します。
普通預金債権は預入れの時から進行し当座預金は契約終了時から進行します。自動継続定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効はそれ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した日から進行します。
主観的起算点
消滅時効の主観的起算点は債権者が権利を行使することができることを知った時です。これは客観的起算点の到来を債権者が知った時であり権利行使が期待可能な程度に当該権利の発生及びその履行期の到来その他権利行使にとっての障害がなくなったことを債権者が知った時を意味します。
債権の消滅時効期間
債権の消滅時効期間は原則として主観的起算点から起算するものは5年、客観的起算点から起算するものは10年です。
契約に基づく一般的な債権は権利発生時にその権利を行使できることを認識しているのが通常であるため主観的起算点と客観的起算点は基本的に一致します。そのため権利を行使することができる時から5年の経過によって時効により消滅するものと解されています。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については167条により客観的起算点から進行する消滅時効の期間が20年間に延長されています。生命及び身体という法益の重要性に鑑みたものです。
債権以外の財産権の消滅時効
債権又は所有権以外の財産権は権利を行使することができる時から20年間行使しないときは時効によって消滅します。ただし形成権は債権に準じて166条1項に従い消滅時効にかかります。
所有権は時効にかかりません。所有権に基づく物権的請求権や登記請求権も消滅時効にかかりません。譲渡担保を設定した債務者の受戻権も消滅時効にかかりません。
留置権、占有権、先取特権及び共有物分割請求権は消滅時効にかかりません。一定の事実状態又は法律関係が存在する限り存続するためです。質権及び抵当権も被担保債権から離れて独自に消滅時効にかかることはありません。ただし抵当権は債務者及び抵当権設定者以外の者すなわち第三取得者や後順位抵当権者との関係では被担保債権から離れて独自に20年の消滅時効にかかります。
用益物権すなわち地上権、永小作権及び地役権は消滅時効の対象となります。地役権については継続的でない地役権は最後の行使の時から起算し継続的な地役権はその行使を妨げる事実が生じた時から起算されます。
形成権の時効期間は特別の規定がない場合に債権に準じて166条1項に従い消滅時効にかかります。解除権は債務不履行の時から消滅時効が進行します。契約解除に基づく原状回復義務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は解除権行使の時から進行します。契約解除に基づく原状回復請求権は本来の債務とは別個の解除により発生する期限の定めのない債権であるためです。予約完結権は予約完結権の成立した時から進行します。
身分権及び親族権は財産的色彩の強いものを除いて消滅時効にかかりません。
同時履行の抗弁権が付着した債権でも消滅時効は弁済期から進行します。被保佐人が弁済期の到来した債権の弁済を請求する訴えを提起するにつき保佐人の同意を得られなくてもその不同意は事実上の障害にすぎないためその債権の消滅時効は進行します。法定代理人がいなくても未成年者の有する債権の消滅時効は進行します。
弁済供託における供託物取戻請求権の消滅時効は供託による免責の効果を受ける必要がなくなった時から進行します。
定期金債権の消滅時効
168条1項は定期金の債権は債権者が定期金の債権から生ずる各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき又は各債権を行使することができる時から20年間行使しないときは時効によって消滅すると定めています。定期金債権とは基本権としての定期金債権をいい支分権を発生させる源の基本的な権利です。支分権とは定期金債権において各期日に支払を請求する権利をいいます。
定期金の債権者は時効の更新の証拠を得るためいつでもその債務者に対して承認書の交付を求めることができます。
判決で確定した権利の消滅時効
169条1項は確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については10年より短い時効期間の定めがあるものであってもその時効期間は10年とすると定めています。判決等の確定によって証拠力が強固になるためです。
保証人に対する勝訴の確定判決により主債務者の消滅時効は延長されません。しかし主債務者に対する勝訴の確定判決により保証人の時効期間も延長されます。
判決確定当時に弁済期の未到来の債権は期限到来時から本来の消滅時効が進行します。
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