訴訟詐欺
裁判所を欺いて勝訴判決を得て敗訴者から財物又は財産上の利益を得るいわゆる訴訟詐欺が詐欺罪を構成するかが問題となります。
訴訟詐欺における欺く行為
訴訟詐欺の場合に人に錯誤を生じさせるような詐欺行為が認められるかについて見解が分かれています。肯定説は判例の立場であり自由心証主義の下裁判官が事実を誤認することもありうるし錯誤に陥ることは否定できないから虚偽の主張に基づいて勝訴判決を得れば詐欺にあたるとします。否定説は形式的真実主義を採用する民事訴訟制度の下では裁判所は虚偽だとわかっていても当事者の主張に拘束されて一定の裁判をしなければならずこのような訴訟制度の利用は欺く行為といえないとします。
訴訟詐欺における処分行為
敗訴者は裁判に服してやむを得ず財物を提供せざるを得ない関係にありますが任意性のある処分行為が認められるかが問題となります。敗訴者が処分権者と考えると処分意思を欠くため処分行為が存在せず詐欺罪が成立しないとも思えますが判例及び通説は訴訟詐欺を三角詐欺すなわち被欺罔者かつ処分権者が裁判所で被害者が敗訴者であると解しています。被欺罔者である裁判所は判決を下すことによりそれに基づいて強制執行による財物又は財産上の利益の移転が可能となるので被害者の財産を処分しうる地位を有する処分権者にほかならず判決を下す行為が処分行為であるといえるとされています。したがって判例によると裁判所による処分行為が存在するとして詐欺罪の成立を認めることができます。
キセル乗車
キセル乗車とは乗車区間の一部についてのみ運賃を支払い残りの区間について無賃で乗車する行為をいいます。判例は乗車駅の改札係員に対する欺罔行為を認定し当該係員をして正常な乗客と誤信させた結果鉄道職員が行為者を目的駅まで輸送する有償的役務の提供という処分行為をしたものとして詐欺罪の成立を認めています。
もっとも現在では改札はほぼ自動化又は無人化されており有人改札はまれであるから通常の詐欺罪が成立する場合も限られます。そこでキセル乗車については電子計算機使用詐欺罪となるとする裁判例もありますが処分行為が認められないので不可罰の利益窃盗にとどまるとする学説もあります。
クレジットカード詐欺の構造
クレジットカードシステムにおいては信販会社と会員契約を締結したクレジットカードの名義人本人に対する個別的な信用を基に一定限度内の信用を供与することが制度の根幹となっています。クレジットカードの会員規約上名義人以外の者によるクレジットカードの利用は許されておらず加盟店はクレジットカード利用者が名義人ではないと知ればクレジットカードの利用には応じないという建前となっています。
したがってクレジットカード利用者と名義人とが同一人物であるということは加盟店が商品を交付するかどうかを判断するための基礎となる重要な事実であるといえるからこの点を偽る行為は欺罔行為にあたりこれにより商品を購入すれば詐欺罪が成立します。なお加盟店が名義人以外の利用であることを知りながらクレジットカードの利用を認めた場合には加盟店にはクレジットカード利用者と名義人の同一性に関する錯誤はないから錯誤に基づく処分行為も認められず詐欺罪は成立しません。
他人名義のクレジットカードの不正使用
クレジットカードの名義人本人に成り済まし同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装う行為について判例は行為者がクレジットカードの名義人から同カードの使用を許されておりかつ自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても詐欺罪の成立は左右されないとしています。
自己名義のクレジットカードの不正使用
信販会員が代金支払の意思も能力もないのに自己名義のクレジットカードを利用して加盟店から物品を購入し又は飲食などをした場合に詐欺罪が成立するかが問題となります。
甲説は加盟店を被欺罔者及び処分者及び被害者とし1項詐欺罪が成立するとします。支払の意思及び能力がないのにあるかのように装って加盟店にカードを呈示する行為は挙動による欺罔行為といえること及び1項詐欺罪は個別財産に対する罪だから加盟店に実質的損害が発生していなくても加盟店を被害者と構成しうることをその理由とします。これに対しては信販会社から立替払を受けることにより加盟店には何ら実質的損害が発生しないという実態を軽視するものであるとの批判があります。裁判例はこの立場に立っています。
乙説は加盟店を被欺罔者及び処分者とし信販会社を被害者として1項詐欺罪が成立するとします。加盟店は信販会社からの代金決済を確実に期待できるから損害が発生したとみることはできないこと及び加盟店は商品に化体された信販会社の財産を処分する権限を有し必ず信販会社に損害を生ぜしめるような処分を行ったといえることがその理由です。これに対しては代金立替をしなければならない信販会社には錯誤に基づく処分行為があったとはいえず被害者を被欺罔者と別人格とする三角詐欺のような法律構成は無理であるとの批判があります。
丙説は信販会社を被欺罔者及び処分者及び被害者とし2項詐欺罪が成立するとします。カード取引では加盟店は顧客の支払意思等について関心がないから加盟店を被欺罔者とするのは実態に反すること及び信販会社は加盟店を通じて送られる売上票を受け取ってそれが後日会員によって支払われると誤信して加盟店に立替払をするのであるからこの点に錯誤及び処分行為があることがその理由です。
丁説は加盟店を被欺罔者及び処分者とし信販会社を被害者として2項詐欺罪が成立するとします。
無銭飲食及び無銭宿泊
最初から支払の意思も能力もなく食堂で飲食物を注文する行為はその挙動自体が社会通念上その注文に代金を支払う旨の意思表示を内包しており相手方に代金を支払うだろうとの錯誤を生じさせるものであるため挙動による欺罔行為にあたり1項詐欺罪が成立します。
家賃を支払う意思も能力もないのにこれがあるかのように装って大家を騙して部屋を借り受けた場合には不動産の事実的支配の利益すなわち居住の利益を得たことになるため246条2項の詐欺罪が成立します。
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