事後強盗罪

238条は窃盗が財物を得てこれを取り返されることを防ぎ逮捕を免れ又は罪跡を隠滅するために暴行又は脅迫をしたときは強盗として論ずると定めています。

事後強盗罪の主体

本罪の主体は窃盗すなわち窃盗犯人です。窃盗既遂犯人のみならず窃盗未遂犯人も窃盗に含まれます。強盗犯人は主体に含まれません。

暴行及び脅迫の程度

事後強盗罪における暴行又は脅迫は相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることを要します。

窃盗の機会

暴行又は脅迫は窃盗の犯行の機会の継続中になされることを要します。窃盗犯人に対する追及が継続していたか否かが重要な判断要素となります。

現場住宅の天井裏に潜んでいた窃盗犯人が約3時間後に逮捕を免れるため警察官に暴行を加えた場合には窃盗の機会の継続中に行われたといえるとされています。一方で財物を窃取した後発見されることなく犯行現場を離れある程度の時間の経過後に被害者等から容易に発見又は取返し又は逮捕されうる状況ではなくなった後に再度窃盗目的で犯行現場に戻ってなした脅迫は窃盗の機会の継続中に行われたものではないとされています。

暴行及び脅迫の相手方

暴行又は脅迫の相手方は必ずしも窃盗の被害者であることを要しません。

主観的要件

本罪は財物を得てこれを取り返されることを防ぐ目的すなわち財物奪還阻止目的、逮捕を免れる目的すなわち逮捕免脱目的及び罪跡を隠滅する目的すなわち罪跡隠滅目的のいずれかをもって暴行又は脅迫を加えた場合に成立する目的犯です。

窃盗犯人が窃盗に着手したが財物の占有を確保する前に家主に見つかったため財物を強取する目的で暴行又は脅迫を加えた場合には居直り強盗として1項強盗罪が成立し事後強盗罪は成立しません。

事後強盗罪の法的性格

事後強盗罪の暴行又は脅迫のみに加功した者の罪責が事後強盗罪の法的性格をどのように解するかと関連して問題となります。例えば窃盗犯人が被害者から財物を取り戻されそうになったため通りかかった第三者に事情を話し事情を了解した第三者と共同して被害者に暴行を加えた場合に窃盗犯人に事後強盗罪が成立することは争いありませんが第三者に事後強盗罪の共同正犯が成立するかが問題となります。

結合犯説

結合犯説は事後強盗罪を結合犯と解し承継的共同正犯の問題として論ずる立場であり通説です。事後強盗罪は財産犯であり同罪の既遂及び未遂は窃盗の既遂及び未遂で区別すべきであるから同罪の財産犯的性格を基礎づける窃取行為も実行行為の一部とみるべきであること及び窃盗は暴行又は脅迫に先行する行為にすぎないから本罪を身分犯とする必要はないことがその理由です。これに対してはいかに事後強盗の計画をもっていようと窃盗段階で逮捕されれば事後強盗罪は成立しないことが明らかなので事後強盗罪は暴行又は脅迫行為によって開始されるものであるとの批判があります。

結合犯説に立った場合にはさらに承継的共同正犯を肯定するか否定するかで結論が分かれます。承継的共同正犯肯定説は本罪は結合犯でありそれ自体が独立した犯罪類型であるから途中加功の場合であっても窃盗と暴行又は脅迫を分断して評価すべきではなくその全体について共同正犯の成立を肯定すべきであるとして事後強盗罪の共同正犯が成立するとします。これに対しては暴行又は脅迫以前の窃取行為に因果性を認めることはできないとの批判があります。

承継的共同正犯否定説は共同正犯の処罰根拠は結果に対する因果性であるから承継的共同正犯は結果に対する因果性が認められる限度でのみ肯定されるが窃盗後に関与した者が財物の所有ないし占有の侵害という結果に因果性を及ぼすことはあり得ないとして暴行又は脅迫の共同正犯が成立するにとどまるとします。これに対しては強度の暴行又は脅迫が行われることが強盗罪の重い不法を根拠付けるのであるから暴行又は脅迫のみに関与した者についても承継的共同正犯として本罪の成立を認めるのが妥当であるとの批判があります。

身分犯説

身分犯説は事後強盗罪を身分犯と解し共犯と身分の問題として解決する立場です。窃盗がという条文の文言から犯罪の主体について規定したものと解するのが妥当であること及び窃盗の段階で逮捕されれば事後強盗罪は成立しないのであるから事後強盗罪の実行行為は窃盗行為ではなく暴行又は脅迫行為であることがその理由です。これに対してはなぜ実行行為ではない身分に関する要件によって本罪の既遂及び未遂が決まるのか説明できないとの批判があります。

身分犯説に立った場合にはさらに真正身分犯説と不真正身分犯説で結論が分かれます。真正身分犯説は窃盗がという文言は実行行為の主体を表しており本罪は窃盗犯人でなければ犯せない犯罪類型と解すべきであるから真正身分すなわち構成的身分として扱うべきであるとして65条1項の適用により事後強盗罪の共同正犯が成立するとします。判例はこの立場に立ち先行者の窃盗が既遂に達した後先行者と意思を通じて逮捕を免れる目的で被害者に暴行を加えて負傷させた後行者は65条1項及び60条の適用により強盗致傷罪の共同正犯が成立するとしています。これに対しては事後強盗罪は窃盗という身分がなくても暴行罪又は脅迫罪として処罰可能なので不真正身分犯と解すべきであるとの批判があります。

不真正身分犯説は窃盗犯人でない者が暴行又は脅迫を加えた場合には暴行罪又は脅迫罪が成立するにすぎず事後強盗罪は窃盗犯人が238条所定の目的をもって同じ行為を行った場合に適用される暴行罪又は脅迫罪の加重類型であるとして暴行又は脅迫の共同正犯が成立するにとどまるとします。これに対しては財産犯と非財産犯という罪質の異なる犯罪類型の間に基本類型と加重類型という関係を認めることはできないとの批判があります。

事後強盗罪の既遂及び未遂の基準

事後強盗罪の既遂及び未遂を判断する基準については見解が分かれています。

甲説は暴行又は脅迫の既遂及び未遂で判断するとします。強盗致死傷罪との対比から暴行又は脅迫が行われれば窃盗が未遂であっても事後強盗罪は既遂と解すべきであるとします。これに対しては強盗致死傷罪は人の生命及び身体の保護に重点を置くが事後強盗罪の本質は財産侵害に求められるとの批判があります。

乙説は窃盗行為の既遂及び未遂で判断するとします。通常の強盗罪の既遂及び未遂の判断基準が財産取得の有無に置かれる以上これに準ずる事後強盗罪のそれもやはり強盗の場合と同じでなければならないとします。これに対しては財物の取り返しを防ぐ場合の未遂が事実上存在しないことになるとの批判があります。

判例は窃盗未遂犯人による準強盗行為の場合は準強盗の未遂をもって問擬すべきものであるとして事後強盗罪の既遂及び未遂を先行する窃盗行為の既遂及び未遂によって判断しています。

事後強盗目的の予備

237条は強盗の罪を犯す目的でその予備をした者は2年以下の拘禁刑に処すると定めています。237条にいう強盗の罪を犯す目的に事後強盗の目的も含まれるかが問題となります。

肯定説は判例の立場であり事後強盗罪は強盗として論ぜられるから予備についても同様に解し237条の強盗の目的には事後強盗の目的も含まれるとします。また昏酔強盗罪も強盗予備罪の後に規定されているが昏酔強盗の目的が強盗の罪を犯す目的に含まれることに異論はないので条文の位置は決定的な理由にはならないこと及び居直り強盗の目的も強盗予備罪として処罰すべきであるが否定説の立場に立つと居直り強盗の目的がある場合でも強盗予備罪の成立を否定すべきこととなり妥当でないことをもその理由とします。

否定説は事後強盗罪は強盗予備罪より後に規定されているから237条の強盗の目的には事後強盗の目的は含まれないこと及び事後強盗目的の予備を処罰すると現行法上不可罰である窃盗の予備を実質的に処罰することになり妥当でないことをその理由とします。

昏酔強盗罪

239条は人を昏酔させてその財物を盗取した者は強盗として論ずると定めています。

昏酔の意義

昏酔させるとは意識作用に一時的又は継続的に障害を生じさせ財物についての事実的な支配が困難な状態に至らせることをいいその方法には制限はありません。睡眠薬や麻酔剤を用いること、泥酔させること等を含みます。ただし暴行により昏酔させる場合には単純な強盗罪となります。

行為者が積極的に昏酔させる行為を行うことが必要であり既に寝ている者や他人が昏酔させた者から奪う行為は窃盗罪にすぎません。

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