正当防衛の正当化根拠

36条1項は急迫不正の侵害に対して自己又は他人の権利を防衛するためやむを得ずにした行為は罰しないと定めています。

法益欠如原理は侵害された利益が刑罰による保護に値するような法益ではない場合には侵害行為は実質的に違法ではないとする考え方です。急迫不正の侵害を行った者は防衛に必要な限度で法益の要保護性が否定されるから防衛行為の違法性が阻却されるとします。法益欠如原理に対しては急迫不正の侵害を行った者であるからといってその法益の要保護性が否定される理由が明らかではなくまたその法益が減弱するとしてもゼロになることはないはずであることが批判されています。

優越的利益原理は別の法益を保護するために他の法益を侵害する必要がある場合に保護される法益と侵害される法益とを衡量し前者と後者が同等か前者が優越している場合には侵害行為は違法ではないとする考え方です。正当防衛は自己保全の利益及び法確証の利益を保護する行為であり被侵害利益に絶対的に優越するため違法性が阻却されるとします。優越的利益原理に対しては法秩序は市民を保護するために存在しているが市民が法秩序を保護するために行為を行うと考えるのは妥当ではなくまた法確証の利益は規範の意味を理解するものにしか認められないため責任無能力者に対する防衛行為については法確証の利益が認められないことになってしまうことが批判されています。

社会的相当性原理は法益侵害行為であっても社会的にみて不相当な行為のみが違法となるとする考え方です。社会的相当性原理に対してはそもそも社会的相当性の判断自体が包括的かつ多義的かつ直感的であり明確な判断基準とならないため違法性阻却の根拠たりえないことが批判されています。

急迫性の意義

急迫とは法益の侵害が現に存在しているかまたは間近に押し迫っていることをいいます。正当防衛は自力救済の禁止の例外という制度趣旨から公的機関による法的保護を求めることが期待できないほど余裕がない緊急状況の下でのみ例外的に許容されます。被害が現に発生していることまでは要しません。一方過去の侵害や将来の侵害に対しては公的機関による法的保護を求めることができる以上緊急状況の下にあるとはいえないため正当防衛が成立することはありません。

急迫性の始期と終期

急迫性は法益の侵害が間近に押し迫っている場合にも認められます。侵害者による侵害行為が実行の着手に至る前の段階であっても押し迫っている場合に当たり得ます。

侵害が終了した場合には急迫性は否定される一方侵害がなお継続している場合には急迫性は肯定されます。一見すると侵害が中断しているような場合には侵害が終了したとみるべきかなお継続しているとみるべきかが問題となります。過去の侵害に対して正当防衛することはできないので侵害の継続性の有無はこれから加えられる侵害が切迫しているか否かによって決せられます。具体的には客観的に再度の攻撃可能性があるか主観的に加害意思が存続しているかを基準に判断されます。

判例は相手方が手すりの外側に上半身を乗り出しながらもなお鉄パイプを握り続けていた事案について相手方の加害の意欲はおう盛かつ強固であり行為者が足を持ち上げて相手方を転落させる行為に及んだ当時も存続していたと認めるのが相当であるとし急迫不正の侵害がなお継続していたとして急迫性を認めています。

侵害を予期していた場合

行為者が侵害を予期していた場合について判例は侵害が予期されたとしてもそのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではないとしています。侵害の予期を根拠に急迫性を否定してしまうと侵害を予期していた者は防衛行為をしてはならないことになり行動の自由を不当に制約するためです。行為者が侵害を予期していなければ行為者が積極的加害意思をもつこともないので急迫性の要件は満たされることになります。

侵害の予期と積極的加害意思が併存する場合

判例は行為者が侵害を予期していたことに加えその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思すなわち積極的加害意思で侵害に臨んだときはもはや侵害の急迫性の要件を満たさないとしています。

刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合

判例は時間的及び場所的に侵害が切迫しておりかつ侵害も予期しているが行為者に積極的加害意思がない場合であっても刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には侵害の急迫性の要件を満たさないとしています。

判例は行為者が侵害を予期したうえで対抗行為に及んだ場合に侵害の急迫性の要件については侵害を予期していたことから直ちにこれが失われると解すべきではなく対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであるとしています。具体的には事案に応じ行為者と相手方との従前の関係、予期された侵害の内容、侵害の予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況及び実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮するとしています。

不正の意義

不正とは違法であることをいいます。適法な侵害に対しては正当防衛は認められません。したがって正当防衛行為や緊急避難行為に対する正当防衛は認められません。侵害行為は犯罪構成要件に該当しない場合であっても不正となり得ます。侵害は客観的に違法なものであれば足り侵害行為者が有責であるか否かを問いません。したがって心神喪失者や14歳未満の者など責任無能力者の違法行為に対する正当防衛も認められます。

侵害の意義

侵害とは他人の権利に対し実害又は危険を与えることをいいます。侵害は故意行為によると過失行為によるとを問わず不作為による場合も侵害に当たり得ます。

防衛の対象

防衛するための行為は自己の権利を防衛するための行為であっても他人の権利を防衛するための行為であってもよいとされています。他人には自然人のみならず法人その他の団体も含みます。正当防衛の成否を検討するに当たって被侵害者と防衛者が同一でない場合には侵害の急迫性は被侵害者の要保護性に関する要件であることから被侵害者の事情を基準に侵害の急迫性の有無を判断するとされています。

権利とは個人の生命、身体及び自由のみならず財産も含まれます。また法律上保護に値する利益であれば足り厳密に法律上の権利でなくてもよいと解されています。権利には国家的法益や社会的法益も含まれます。判例は国家的法益を保護する目的で行われた私人の防衛行為について国家公共の機関の有効な公的活動を期待し得ない極めて緊迫した場合に限り例外的に許容されるとしています。

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