過失傷害の罪の保護法益
過失傷害の罪の保護法益は人の生命及び身体の安全です。
過失傷害罪
209条1項は過失により人を傷害した者は30万円以下の罰金又は科料に処すると定めています。同条2項は本罪は告訴がなければ公訴を提起することができないと定めています。すなわち本罪は親告罪です。
過失致死罪
210条は過失により人を死亡させた者は50万円以下の罰金に処すると定めています。
業務上過失致死傷罪
211条前段は業務上必要な注意を怠りよって人を死傷させた者は5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処すると定めています。
業務とは人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為でありかつ他人の生命及び身体に対する危険性を包含するものをいいます。
社会生活上の地位に基づくことが必要であり家庭生活における炊事や育児は社会生活上の地位に含まれません。継続的かつ反復的に従事するものであれば足り必ずしも職業や営業である必要はありません。他人の生命及び身体の危険に対して危険があることが必要であり人の生命及び身体の危険を防止することを業務の内容とするものも含まれます。自転車の走行は一般的には危険性を内包する行為とはいえないから業務には含まれません。適法であることを要せず違法な業務も業務にあたります。無免許の医業も業務にあたります。
重過失致死傷罪
211条後段は重大な過失により人を死傷させた者も業務上過失致死傷罪と同様に処すると定めています。
重大な過失により、とは注意義務違反の程度が著しいことすなわち行為者としてわずかな注意を払えば結果発生を予見することができ結果の発生を回避できた場合を意味します。発生した結果の重大性や結果発生の可能性が大であったことは必ずしも要しません。
堕胎の罪の保護法益
堕胎の罪の保護法益は胎児の生命及び身体の安全並びに母体の生命及び身体の安全です。
堕胎の意義
堕胎とは自然の分娩期に先立って胎児を母体外に排出することをいいます。母体内での殺害も堕胎にあたります。
自己堕胎罪
212条は妊娠中の女子が薬物を用い又はその他の方法により堕胎したときは1年以下の拘禁刑に処すると定めています。
同意堕胎罪及び同致死傷罪
213条は女子の嘱託を受け又はその承諾を得て堕胎させた者は2年以下の拘禁刑に処すると定めています。よって女子を死傷させた者は3月以上5年以下の拘禁刑に処すると定めています。
業務上堕胎罪及び同致死傷罪
214条は医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け又はその承諾を得て堕胎させたときは3月以上5年以下の拘禁刑に処すると定めています。よって女子を死傷させたときは6月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。業務上堕胎罪は被害者の嘱託又は承諾があることが要件であり嘱託も承諾もない場合は一般人と業務者を問わず不同意堕胎罪が成立します。
不同意堕胎罪
215条1項は女子の嘱託を受けないで又はその承諾を得ないで堕胎させた者は6月以上7年以下の拘禁刑に処すると定めています。同条2項は本罪の未遂は罰すると定めています。
不同意堕胎致死傷罪
216条は不同意堕胎罪を犯しよって女子を死傷させた者は傷害の罪と比較して重い刑により処断すると定めています。
堕胎罪の罪数
判例は胎児を早期に排出したが生命機能を有していたために作為によってこれを殺害した事案について堕胎罪と殺人罪の併合罪になるとしています。また判例は堕胎により出生させた未熟児を生育可能性のあることを認識し医療の措置をとることが迅速かつ容易にできたのに放置して死亡させた医師には業務上堕胎罪のほか保護責任者遺棄致死罪が成立し両罪は併合罪となるとしています。
堕胎罪の共犯
妊婦が医師を教唆して堕胎させる行為は単に自己堕胎罪が成立します。妊婦に対して堕胎を教唆した場合は自己堕胎罪の教唆が成立します。
胎児性致死傷
母体を通じて胎児に故意又は過失により侵害を加えたところその結果が生まれた後の人になった段階で傷害や死亡の結果が生じた場合に人に対する罪が成立するかが問題となります。
母体一部傷害説は胎児は母体の一部であるから胎児に傷害を負わせることは人すなわち母体に対する傷害となるとし胎児が出生し人になった後に死亡すれば母という人に傷害を負わせて子という人に死亡の結果をもたらしたといえ人に対する罪が成立するとします。判例はこの立場に立っています。これに対しては自傷行為と異なり自己堕胎は処罰されており現行法は胎児と母体を区別していることが批判されています。
母体機能傷害説は母親を有害作用によって健康な子どもを出産できない状態に置いたことは母親としての重要な生理的機能を傷害したといえるとします。これに対しては胎児が侵害されたと見るのが自然であり説明が技巧的にすぎるとの批判がなされています。
肯定説は生まれてきた人に対する罪が成立するとし侵害作用が及んだ時点で人が現存することは必ずしも必要でなく人に対する結果が発生した時点で客体である人が存在すれば足りるとします。
否定説は刑法は堕胎の罪によって胎児を人と区別して保護しているから実行行為時に胎児であれば堕胎罪のみが成立するとします。過失堕胎は不可罰であるのに過って胎児に傷害を与えそれが子どもに残った場合に過失傷害や過失致死で処罰するのは不均衡であること及び胎児を傷害した場合に傷害罪が成立するならば胎児を殺した場合に堕胎罪にしかならないのは不均衡であることがその理由です。
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