相殺の意義

相殺とは債権者と債務者とが相互に同種の債権及び債務を有する場合にその債権と債務とを対当額において消滅させる一方的意思表示すなわち単独行為をいいます。相殺しようとする側の債権を自働債権といい相殺される側の債権を受働債権といいます。当事者の契約による相殺以外に単独行為の相殺制度が認められたのは簡易決済機能と相手方の無資力のリスクを回避し他の債権者に優先して債権を回収できるという担保的機能及び当事者間の公平によります。

相殺適状

505条1項は2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において双方の債務が弁済期にあるときは各債務者はその対当額について相殺によってその債務を免れることができると定めています。ただし債務の性質がこれを許さないときはこの限りではありません。

相殺をするには双方の債権が相殺適状にあることが必要です。相殺適状の要件として第1に2人が互いに債務を負担すること、第2に双方の債権が同種の目的を有すること、第3に双方の債務が弁済期にあること及び第4に債務の性質が相殺を許すものであることが必要です。

当事者間に債権が対立すること

原則として自働債権は相殺者が被相殺者に対して有する債権であることが必要です。条文上の例外として連帯債務における相殺や保証債務における相殺があります。原則として他人に対する債権をもって相殺することはできません。受働債権は被相殺者が相殺者に対して有する債権であることが必要です。対立する債権は有効に存在しなければならず一方の債権が不存在又は無効であるときは相殺は無効です。相殺の意思表示前に一方の債権が弁済、解除又は相殺によって消滅した場合には弁済等の前に相殺適状にあったとしても相殺をすることはできません。ただし時効消滅前に相殺適状にあった場合は相殺をすることができます。

同種の目的を有すること

相殺は原則として金銭又は代替物を目的とする種類債権に限られます。目的が同種であればよいから原因又は債権額が同一であることや履行期若しくは履行地が同一であることは必要ではありません。合意に基づく相殺すなわち相殺契約においては双方の債権が同種の目的を有するものでなくてもよいと解されています。

双方の債務が弁済期にあること

自働債権のみならず受働債権についても弁済期が現実に到来していることが必要です。既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには受働債権につき期限の利益を放棄することができるというだけではなく期限の利益の放棄又は喪失等によりその弁済期が現実に到来していることを要します。受働債権の債務者がいつでも期限の利益を放棄できることを理由に両債権が相殺適状にあると解することはその債務者が既に享受した期限の利益を自ら遡及的に消滅させることとなって相当でないためです。

弁済期の到来している受働債権に対し弁済期の定めのない債権を自働債権として相殺することはできます。弁済期の定めのない債権については契約成立と同時に弁済期にあるためいつでも相殺が可能です。自働債権についてまだ催告がなされておらず債務者が履行遅滞となっていなくても差し支えありません。

債務の性質が相殺を許すこと

使用者が労働者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権として労働者の賃金債権と相殺することは許されません。

自働債権に相手方の同時履行の抗弁権や催告及び検索の抗弁権等が付着している場合には相殺が許されません。ただし自働債権と受働債権がともに同時履行の関係にある場合には例外的に相殺が認められます。たとえば請負目的物の修補請求に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権として相殺することは可能です。受働債権に抗弁権が付着している場合は相殺をすることができます。

受任者が有する代弁済請求権に対しては委任者は受任者に対する債権をもって相殺することはできません。

有価証券に表章された金銭債権を債務者が受働債権として相殺するに当たっては有価証券の占有は要しません。

相殺禁止

505条2項は当事者が相殺を禁止し又は制限する旨の意思表示をした場合にはその意思表示は第三者がこれを知り又は重大な過失によって知らなかったときに限りその第三者に対抗することができると定めています。相殺適状を生じても当事者の合意により相殺が禁止又は制限される場合があります。法律による禁止としては不法行為等により生じた債権を受働債権とする場合、差押禁止債権を受働債権とする場合及び差し押えられた債権を自働債権とする場合があります。

相殺の方法

506条1項は相殺は当事者の一方から相手方に対する意思表示によってすると定めています。相殺は一方的な意思表示による一種の形成権です。相対立する債権を意思表示によって消滅させる意思が示されれば足り相殺を明言することを要しません。相殺する債権は示されることを要しますが債権の同一性を認識する程度に示されれば足ります。相殺の意思表示の相手方はその時点において受働債権を有する者であり受働債権が譲渡された場合には相殺の意思表示の相手方は譲受人となります。

法律関係の安定を図るため相殺に条件を付することはできません。また相殺は遡及効を有するため期限を付することは無意味です。合意に基づく相殺すなわち相殺契約においては公序良俗に反しない限り相殺の意思表示に条件や期限を付することもできます。

相殺の遡及効

506条2項は相殺の意思表示は双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずると定めています。双方の債権が相殺適状にあるときは既に双方の債権関係は決済されたとするのが当事者の意思に添うため相殺の遡及効が認められています。

相殺の効力は相殺適状成立時に遡及するため適状成立後に発生した利息は発生しなかったことになり支払済の利息については不当利得の返還の問題を生じます。相殺適状後に生じた遅滞の効果も消滅します。

賃貸借契約が賃料不払のために適法に解除された以上その後に賃借人の相殺の意思表示により賃料債務が遡及して消滅しても解除の効力に影響はありません。

請負人が注文者に対して報酬請求をしたのに対して注文者が目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合には注文者の損害賠償債権が相殺適状時にさかのぼって消滅したとしても相殺の意思表示をするまで注文者がこれと同時履行の関係にある報酬債務の全額について履行遅滞による責任を負わなかったという効果に影響はないため注文者は請負人に対する相殺後の報酬債務について相殺の意思表示の翌日から履行遅滞による責任を負います。

履行地の異なる債務の相殺

507条は相殺は双方の債務の履行地が異なるときであってもすることができると定めています。この場合において相殺をする当事者は相手方に対しこれによって生じた損害を賠償しなければなりません。

時効により消滅した債権を自働債権とする相殺

508条は時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合にはその債権者は相殺をすることができると定めています。対立する両債権が相殺適状にあるとき当事者はあえて自分の債権の消滅も考えずに自動的に決済されたように考えて過ごす事情があるため当事者間のこのような信頼を保護する趣旨です。

消滅時効が援用された自働債権はその消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要します。既に時効消滅にかかった債権を譲り受けこれを自働債権として相殺しても時効の援用があれば相殺は効力を生じません。

債権者が保証人に対して債務を負担していた場合にその債務と保証債務が相殺適状になった後に主債務について時効が完成しても債権者は主債務にかかる保証人に対する債権と保証人の債権とを相殺することができます。

請負契約において注文者が所定の制限に係る期間の経過した損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺も508条を類推適用して認められます。

受働債権の消滅時効が完成している場合に時効の利益を放棄して相殺することは自由です。相手方が既に時効の援用をしているかどうかは508条の適用上問題となりません。

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