投票価値の平等
投票価値の平等が憲法上保障されていることについては今日判例及び学説上争いはありません。もっとも憲法が投票価値の平等まで保障していると解するとしても、議員定数の配分と人口数もしくは有権者数との比率を各選挙区で全く同一にすることは現実には困難です。そこでいかなる基準で投票価値の平等がみたされているかを判断すべきかが問題となります。なお定数不均衡は選挙無効の訴えによって争うことができます。
投票価値の平等の基準に関する学説
A説は1対1の原則を超える限りたとえ1対2以内であってもこれを正当化する特別の事由が立証されない限り違憲の問題を生ずるとします。その理由として、選挙権の法的性格について権利説を前提にして主権者間の権利の平等を厳格に要求することによって主権者の意思を議会に忠実に反映させることが挙げられます。
B説は通説であり、特段の事情のない限り1対2以上の較差は正当化されないとします。その理由として、第一に一票の重みが特別の合理的な根拠もなく選挙区間で2倍以上の偏差をもつと実質上複数投票制を認めたことになり投票価値の平等すなわち一人一票の原則の本質を破壊することになること、第二にただ他方で選挙区は行政区画を前提にして決められていることまた選挙によってできるだけ多様な国民意思が公正に国会に反映されるべきであるという社会学的意味の代表をも考慮しなければならないことが挙げられます。
衆議院議員定数不均衡に関する判例の概観
最高裁判所は較差の許容限度を明示していませんが、1対3程度と考えているものと思われていました。しかし近時1対3を下回る較差であっても違憲状態であることを示した判例が現れました。
衆議院議員定数不均衡に関する主要な判例は以下のとおりです。
最大較差が1対4.99であった事案では投票価値の平等に反するとされ合理的期間内に是正がなされなかったと判断されましたが事情判決の法理を用いて選挙自体は無効としませんでした。
最大較差が1対3.94であった事案では投票価値の平等に反するとされましたが合理的期間内に是正がなされなかったとは断定できないとされました。
最大較差が1対4.40であった事案では投票価値の平等に反するとされ合理的期間内に是正がなされなかったと判断され事情判決の法理が用いられました。
最大較差が1対2.92であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。
最大較差が1対3.18であった事案では投票価値の平等に反するとされましたが合理的期間内に是正がなされなかったとは断定できないとされました。
最大較差が1対2.82であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。
最大較差が1対2.309であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。この判決は衆議院議員の選挙制度として小選挙区比例代表並立制が導入された後の新制度の合憲性につき初の判断を示したものです。
最大較差が1対2.171であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。
1人別枠方式の問題
最大較差が1対2.304であった事案では1人別枠方式を含む区割基準及び選挙区割りにつき投票価値の平等に反するとされましたが合理的期間内に是正がなされなかったとは断定できないとされました。
その後の最大較差が1対2.425であった事案でも投票価値の平等に反するとされ合理的期間内に是正がなされなかったとは断定できないとされましたが、1人別枠方式を定めた規定が削除されたこと及び全国の選挙区間の人口較差を2倍未満に収めることを可能とする0増5減の定数配分と区割り改定の枠組みが定められたことが考慮されました。
最大較差が1対2.129であった事案では投票価値の平等に反するとされましたが合理的期間内に是正がなされなかったとは断定できないとされました。この判決では0増5減に伴う選挙区割りの改正が実現した下での衆議院議員選挙が問題となりました。
0増6減とアダムズ方式
最大較差が1対1.979であった事案では投票価値の平等に反しないとされました。1人別枠方式の影響は残るものの0増6減の措置等による漸進的な是正が図られていること及び較差が2倍以上の選挙区は存在しないことから違憲状態は解消されたと評価されました。
最大較差が1対2.079であった事案でも投票価値の平等に反しないとされました。この判決ではアダムズ方式すなわち各都道府県の人口を一定の数値で割りそれぞれの商の小数点を切り上げた数を各都道府県に配分しその合計数を小選挙区の定数と等しくする方式により10年ごとに各都道府県への定数配分を行い選挙区間の投票価値の較差を是正しようとしたことが評価されました。
最大判昭和51年4月14日の判旨
この判決は衆議院議員定数不均衡に関する判例の基礎となるものです。
投票価値の平等の位置づけについて、投票価値の平等は明らかにこれに反するものその他憲法上正当な理由となりえないことが明らかな人種、信条、性別等による差別を除いては原則として国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解されなければならないとしました。もっとも投票価値の平等は単に国会の裁量権の行使の際における考慮事項の一つであるにとどまり憲法上の要求としての意義と価値を有しないことを意味するものではないとしました。国会がその裁量によって決定した具体的な選挙制度において現実に投票価値に不平等の結果が生じている場合にはそれは国会が正当に考慮することのできる重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるものでなければならないとしました。
議員定数配分の決定が憲法違反と判断される場合について、具体的な選挙区割と議員定数の配分の決定については各選挙区の選挙人数又は人口数と配分議員定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるべきことは当然ですが、それ以外にも実際上考慮されかつ考慮されてしかるべき要素は少なくないとしました。さらに社会の急激な変化やその一つのあらわれとしての人口の都市集中化の現象なども選挙区割や議員定数配分にどのように反映させるかも国会における高度に政策的な考慮要素の一つであるとしました。
このように衆議院議員選挙の議員定数配分の決定は極めて多種多様で複雑微妙な政策的及び技術的考慮要素が含まれており結局は国会の具体的に決定したところがその裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはないとしました。しかし具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票価値の不平等が国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときはもはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきものでありこのような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り憲法違反と判断するほかはないとしました。
本件衆議院議員選挙当時における選挙人の投票価値の不平等は一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているばかりでなくこれを更に超えるに至っているものというほかはなく憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になっていたとしました。
合理的期間論と違憲となる定数配分規定の範囲
しかしこれによって直ちに当該議員定数配分規定を憲法違反とすべきものではなく、人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解するとしました。
本件議員定数配分規定は憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるをえないとしました。そして選挙区割及び議員定数の配分は議員総数と関連させながら決定されるのであってその決定内容は相互に有機的に関連し一部分における変動は他の部分にも波動的に影響を及ぼすべき性質を有するものと認められその意味において不可分の一体をなすと考えられるから当該配分規定は全体として違憲の瑕疵を帯びるとしました。
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