緯度別に見た熱収支
熱収支の緯度による違い
第5章の放射平衡温度のセクションで、低緯度では受け取る太陽放射エネルギーが放出する地球放射エネルギーを上回り(エネルギー過剰)、高緯度では放出するエネルギーが受け取るエネルギーを上回る(エネルギー不足)ことを学びました。ここではこの緯度による熱収支の偏りをもう少し詳しく見ていきます。
太陽放射のエネルギーは赤道付近で最も多く地表に到達し、極に向かうほど少なくなります。これは、高緯度では太陽光が地表面に対して斜めに入射するため、同じ面積の地表面が受ける太陽放射エネルギーが少なくなるためです。また、高緯度では太陽光が大気中を通過する距離が長くなるため、大気による吸収や散乱も多くなります。
一方、地球から宇宙空間に放出される地球放射(赤外線放射)のエネルギーは、低緯度と高緯度であまり大きな差がありません。地球放射はその地点の温度の4乗に比例しますが(シュテファン・ボルツマンの法則)、赤道付近と極付近の温度差は絶対温度で見ると比較的小さいため、放射量の差も太陽放射ほどは大きくならないのです。
この結果、おおよそ緯度38度付近を境にして、それより低緯度側ではエネルギーが余り、高緯度側ではエネルギーが不足するという状態になっています。
赤道と極の温度差
もしエネルギーの輸送が一切なければ、低緯度はどんどん暖まり続け、高緯度はどんどん冷え続けるはずです。しかし、実際にはそのようなことは起きていません。赤道付近の気温は際限なく上昇せず、極地方の気温も際限なく低下していません。これは、低緯度の余剰エネルギーが高緯度に向けて輸送されているからです。
この熱の輸送がなければ、赤道と極の温度差は現在よりもはるかに大きくなるはずです。実際の赤道と極の温度差がそれほど極端でないのは、大気や海洋による熱輸送のおかげなのです。
熱を運ぶ3つのしくみ
低緯度から高緯度への熱の輸送には、主に3つのしくみがはたらいています。大気の大循環、海流、そして潜熱輸送です。
大気の大循環による熱輸送
大気の大循環とは、地球全体にわたる大規模な大気の流れのことです。低緯度で暖められた空気が上昇して高緯度に向かい、高緯度で冷やされた空気が下降して低緯度に向かうという、大規模な対流循環が起きています。この大気の流れによって、暖かい空気(顕熱)が低緯度から高緯度に運ばれます。大気の大循環の詳細については次のセクションで学びます。
海流による熱輸送
海流もまた大きな熱輸送の役割を担っています。低緯度で暖められた海水が海流によって高緯度に運ばれ、高緯度の大気に熱を放出します。たとえば、メキシコ湾流は北大西洋の高緯度地域に大量の熱を運んでおり、西ヨーロッパの気候が同じ緯度の他の地域よりも温暖である一因となっています。
海流による熱輸送は、大気の大循環による熱輸送とほぼ同じくらいの大きさがあり、地球全体のエネルギーバランスにおいて非常に重要な役割を果たしています。
潜熱による熱輸送
3つ目の重要な熱輸送のしくみが潜熱輸送です。低緯度の暖かい海面からは大量の水が蒸発しています。水が蒸発するときには周囲から熱(蒸発の潜熱)を吸収します。こうして潜熱の形でエネルギーを蓄えた水蒸気は、大気の流れに乗って高緯度に運ばれます。水蒸気が高緯度で凝結して雲や雨になるとき、蓄えていた潜熱を大気中に放出します。このようにして、低緯度のエネルギーが潜熱の形で高緯度に運ばれるのです。
潜熱は、水平方向(低緯度から高緯度)だけでなく、鉛直方向にも輸送されます。地表面で蒸発した水蒸気が上昇して上空で凝結すると、地表面のエネルギーが潜熱の形で上空に運ばれたことになります。この鉛直方向の潜熱輸送は、大気の対流を駆動する重要なエネルギー源でもあります。熱帯地方で発達する積乱雲は、まさにこの潜熱の鉛直輸送を活発に行っている現象です。
熱輸送のまとめ
以上のように、低緯度から高緯度への熱の輸送は、大気の大循環(顕熱)、海流(顕熱)、潜熱という3つのしくみによって行われています。これらの熱輸送があるおかげで、赤道と極の温度差は緩和され、地球全体の気候が比較的穏やかに保たれているのです。
大気の大循環や海流は、この緯度による放射エネルギーの偏りを解消するために存在しているともいえます。逆にいえば、緯度によるエネルギーの偏りこそが大気の大循環や海流を駆動する原動力なのです。
