温度風
温度風とは
温度風は、実際に吹いている風ではなく、地衡風の鉛直シア、つまり鉛直方向に見た2地点間の差を表している風のことをいいます。風のベクトルを使うことによって考えることができます。
では、この温度風には、いったいどのような性質があるのでしょうか。もう少し具体的にお話ししていきます。
温度風ベクトルの求め方
ある地点の下層の地衡風と上層の地衡風のベクトルが観測されていたとします。下層のベクトルの先から上層のベクトルの先に向かって引いたベクトルが、温度風です。
実は、温度風には、この層間(この場合は下層から上層まで)の平均気温の等温線、つまり気温の等しいところを結んだ線に平行に吹くという性質があります。
仮に、この温度風とほぼ同じ位置に平行に並ぶように、この層間の平均気温の等温線が引かれているものとしてこの等温線を基準に考えてみます。すると、北半球では、この温度風からみて右手の方角には基準にした等温線よりも温度の高い等温線が対応しており、左手の方角には温度の低い等温線が対応していることがわかります。ちなみにいずれの等温線もこの層間の平均気温を表した等温線であり、温度風の風と平行に引かれます。
この温度風という風には、北半球では暖気側を右手の方角に、寒気側を左手に、それぞれみて吹くという性質があります。温度風にもし右手と左手があるのであれば、右手の方角に暖気側があるように吹きます。ちなみに、南半球では、逆に暖気側を左手の方角に見て吹く性質があります。
3つのベクトルの関係
このように、温度風は、地衡風の鉛直シアを表すだけでなく、その層間の平均気温の等温線の流れのようなものをみることができます。その吹き方を見ればどちらの方角に暖気側、または寒気側があるかわかるのです。
くり返しになりますが、温度風は、下層の地衡風と上層の地衡風をベクトルで表したときに、下層のベクトルの先から上層のベクトルの先へつないだベクトルとなります。3つのベクトルについて考えていきましょう。
下層の地衡風ベクトルと温度風ベクトルを2辺とした平行四辺形を描くと、ちょうど上層の地衡風ベクトルが、この平行四辺形の対角線になります。つまり、ベクトルの合成を考えると、下層の地衡風ベクトルと温度風ベクトルを足したものが上層の地衡風ベクトルに等しくなります。
それを式で表すと次のようになります。
下層の地衡風ベクトル + 温度風ベクトル = 上層の地衡風ベクトル
この式の左辺にある下層の地衡風ベクトルの項を右辺に移項させると、次のようになります。
温度風ベクトル = 上層の地衡風ベクトル − 下層の地衡風ベクトル
つまり、温度風ベクトルは上層の地衡風ベクトルから下層の地衡風ベクトルを引いたものということになります。
風の順転と逆転
また、この温度風の考え方を使うことによって、次のような関係がいえます。風が下層から上層に向けて時計回りに回転していることを風の順転といいます。そのとき北半球では暖気移流、つまり暖かい側から冷たい側に向けて風が吹くがあるといえます。逆に、風が下層から上層に向けて反時計回りに回転していることを風の逆転といい、そのとき北半球では寒気移流、つまり冷たい側から暖かい側に向けて風があるといえます。
では、なぜそのようになるのかを今からお話ししていきます。
風の順転と暖気移流
まず、下層の地衡風ベクトルと上層の地衡風ベクトルについて考えます。矢印の向きが風の吹く向きを表しており、また風の吹いてくる方向を風向といいましたから、この場合、下層から上層に向けて時計回りに風の向きと風向も変化しています。そこで、この下層から上層のベクトルの先をつないだものが温度風ベクトルです。
この温度風の性質を考えると、温度風からみて北半球では右手の方角に暖気側があるので、この場合の下層と上層の風は温度風の右手の方角、つまり暖気側から吹いてきていることになります。これを暖気移流といいます。
このように、風が下層から上層に向けて時計回りに変化するときは、温度風の右手の方角、つまり暖気側から風が吹くので、暖気移流があることになります。
風の逆転と寒気移流
同じように、下層の地衡風ベクトルと上層の地衡風ベクトルが、今度は風の向きと風向が下層から上層にかけて反時計回りに変化しているとします。風が時計回りに変化しても反時計回りに変化しても、必ずこの下層のベクトルから上層のベクトルの先をつないだものが温度風ベクトルとなることに注意してください。
このときの温度風の性質を考えると、温度風からみて北半球では右手の方角に暖気側がありますが、風は左手の方角(寒気側)から吹いてきていることになります。これを寒気移流といいます。
このように、風が下層から上層に向けて反時計回りに変化するときは、温度風の左手の方角、つまり寒気側から風が吹くので、寒気移流があることになります。
暖気移流・寒気移流についての注意点
暖気移流と寒気移流という言葉について、少し注意が必要です。暖気移流とは「暖かい空気が流れてくること」であり、風が暖気側から吹いてくるということを指します。寒気移流とは「冷たい空気が流れてくること」であり、風が寒気側から吹いてくるということを指します。
ここで注意すべきなのは、移流という言葉の方向性です。「暖気移流」とは暖かい空気がこちらに運ばれてくることであり、暖気側から寒気側に向かって空気が移動するということです。逆に「寒気移流」とは冷たい空気がこちらに運ばれてくることであり、寒気側から暖気側に向かって空気が移動するということです。
風向は「風が吹いてくる方向」で定義されますから、暖気移流のときは暖かい側から風が吹いてきて、寒気移流のときは冷たい側から風が吹いてきます。この関係をしっかり理解しておくことが大切です。
温度風の関係
温度風の考え方を使うと、なぜ暖かい空気のある側の等圧面が上に持ち上がるのかを理解することができます。
大きさの違う同じ1hPaの空気を比べてみましょう。暖かい空気と冷たい空気では密度が異なります。暖かい空気は膨張して密度が小さくなるため、同じ質量(同じ気圧に対応する空気の柱)でも厚みが大きくなります。冷たい空気は収縮して密度が大きくなるため、同じ質量でも厚みが小さくなります。
このことから、暖かい空気の側では等圧面の間隔が広くなり、冷たい空気の側では等圧面の間隔が狭くなります。たとえば地上の気圧が同じでも、暖気側では上空の等圧面が高い位置に持ち上がり、寒気側では等圧面が低い位置に下がります。
つまり、上空に行くほど暖気側の気圧が相対的に高く、寒気側の気圧が相対的に低くなるため、上空ほど気圧傾度力が強まります。気圧傾度力が強まれば、それとつり合うコリオリ力も強まる必要があるので、風速も大きくなります。これが「上空ほど風が強くなる」理由であり、温度風が存在する理由でもあります。
温度風の大きさは、上層と下層の間の水平温度傾度(温度の水平方向の変化率)に比例します。つまり、水平方向の温度差が大きいほど温度風も強くなり、上層と下層の地衡風の差が大きくなります。
ホドグラフ
温度風の理解を深めるために、ホドグラフという図が使われます。ホドグラフとは、ある地点の各高度における風のベクトルを、すべて原点から描いたものです。各高度の風のベクトルの先端を順に結ぶと、高度による風の変化を一目で見ることができます。
ホドグラフ上で、ある高度の風のベクトルの先端から、その上の高度の風のベクトルの先端へ向かう矢印が、その層間の温度風ベクトルに対応します。ホドグラフを使えば、各層間で風が順転しているか逆転しているかが視覚的に把握でき、暖気移流や寒気移流の判断に役立ちます。
風のU成分とV成分
ここで風のU成分とV成分についてもお話ししておきます。U成分とは風の東西成分のことで、V成分とは風の南北成分のことです。
例えば北東方向に向いて南西の風が吹いているとします。この風を東西方向と南北方向の2方向に分解したものをそれぞれU成分とV成分といい、これをベクトル分解とよびます。
U成分とV成分のUとVは形が似ていますが、見間違わないように気をつけてください。
