地衡風

風が吹き始めるまで

前のセクションで、風が吹く原動力は気圧傾度力であること、そして吹き始めた風にはコリオリ力がはたらくことを学びました。ここではその2つの力が同時にはたらいたとき、風がどのように吹くかを考えます。

まず、気圧傾度力によって空気が動き始めます。気圧傾度力は等圧線に対して垂直に、高圧側から低圧側に向かってはたらきます。空気が動き始めると、その瞬間からコリオリ力がはたらき始め、北半球では進行方向の右側に風の向きを曲げていきます。

風速が増すにつれてコリオリ力も大きくなります(コリオリ力は風速に比例するため)。やがてコリオリ力が気圧傾度力と同じ大きさになると、2つの力はつり合い、風はそれ以上向きを変えなくなります。このつり合いの状態に達したとき、風は等圧線に対して平行に吹くようになっています。

地衡風とは

地衡風(ちこうふう)とは、気圧傾度力とコリオリ力がつり合ったときに吹く風のことです。「地」は地球、「衡」はつり合いの意味で、地球の自転によるコリオリ力と気圧傾度力がつり合った風であることを表しています。

地衡風には次のような特徴があります。

1. 等圧線に平行に吹く

地衡風は等圧線に対して平行に吹きます。気圧傾度力が等圧線に垂直にはたらき、コリオリ力が風の進行方向に対して直角(北半球では右側)にはたらくので、この2つがつり合う条件を満たすのは、風が等圧線に平行に吹くときだけなのです。

2. 北半球では低圧部を左に見て吹く

北半球の地衡風は、進行方向の左側に低圧部がくるように吹きます。これは「背風側左手の法則」とも呼ばれ、風を背中に受けて立ったとき、左手の方に低気圧があるという経験則です。南半球ではこれが逆になり、低圧部を右に見て吹きます。

3. 等圧線の間隔が狭いほど風速が大きい

等圧線の間隔が狭いほど気圧傾度力が大きく、それとつり合うコリオリ力も大きくなければなりません。コリオリ力は風速に比例するので、等圧線の間隔が狭いほど風速が大きくなります。

地衡風の式

地衡風の風速は、気圧傾度力とコリオリ力が等しいという条件から求められます。

気圧傾度力 = コリオリ力
(1/ρ) × (ΔP/Δn) = f × Vg

∴ Vg = (1/ρf) × (ΔP/Δn)
(Vg:地衡風の風速、ρ:空気の密度、f:コリオリパラメータ、ΔP/Δn:気圧傾度)

この式から、地衡風の風速は気圧傾度に比例し、空気の密度とコリオリパラメータに反比例することがわかります。

コリオリパラメータは赤道で0になりますから、赤道上では地衡風の式が成り立ちません。つまり、赤道付近では地衡風は存在しないのです。赤道に近づくほどコリオリ力が弱くなるため、地衡風の考え方が使えるのは中・高緯度地域に限られます。

地衡風と実際の風の違い

地衡風はあくまで気圧傾度力とコリオリ力の2つの力だけがつり合った理想的な風です。実際の大気では、摩擦力や遠心力など他の力もはたらくため、実際の風は地衡風とぴったり一致するわけではありません。

しかし、上空(地表面から十分離れた自由大気)では摩擦力の影響が小さいため、実際の風は地衡風にかなり近い状態で吹いています。地上付近では摩擦力の影響が大きくなるため、地衡風からのずれが大きくなります(これについては後のセクションで学びます)。

気象学では、地衡風は大気の運動を理解するための基本的な近似として非常に重要な概念です。実際の風が地衡風からどの程度ずれているかを見ることで、大気中でどのような力がはたらいているかを推定することもできます。

地衡風の風速を求める2つの式

地衡風の風速を求める式には、実は2種類あります。それは地上天気図と高層天気図で読み取れる量が異なるためです。

①気圧差から地衡風の風速を求める式

V = (1 / 2Ωsinφρ) × (ΔP / Δn)

この式の中のΔPは気圧差を意味しています。つまりこの式は気圧差から地衡風の風速を求める式です。

この式を使って計算するときには注意点があります。それぞれの要素、風速VやΔPなどの単位を合わせてから計算することです。ΔPの気圧差の単位はhPaではなくPaなので、hPaで表されていたらPa(1hPa=100Pa)に直して計算します。Δnの距離の単位はkmではなくmなので、kmで表されていたらm(1km=1000m)に直して計算します。

地上天気図は別名が等高度面天気図といって、海抜0mに合わせているため高度がどこでも一定です。その高度面での気圧がどのくらいになるのかを示す意味で、地上天気図には等圧線が引かれています。したがって、地上天気図上で地衡風の風速を求めるときは、この①の気圧差から求める式を用います。

②高度差から地衡風の風速を求める式

地衡風の風速を求める式にはもう1つあります。①の式のΔPを、静水圧平衡の式(ΔP=−ρgΔZ)を利用して変換すると、次のようになります。

V = (g / 2Ωsinφ) × (ΔZ / Δn)

この式のΔZは高度差を意味しています。つまりこの式は高度差から地衡風の風速を求める式です。

高層天気図(等圧面天気図)では気圧はどこでも一定ですが、等高度線が引かれているので高度差がわかります。したがって、高層天気図上で地衡風の風速を求めるときは、この②の高度差から求める式を用います。

高層天気図では高度差(ΔZ)が気圧差(ΔP)のようなものですから、結局は気圧差から地衡風を求めることと同じようなものといえます。

ベクトルについて

力や風の大きさを矢印で表したものをベクトルといいます。力や風の向きはこの矢印の向きで表し、力や風の大きさはこの矢印の長さで表します。

2つの力がそれぞれ違う方向に分かれているとき、その2つの力の矢印を2辺とした平行四辺形を描き、その対角線が2つの力を足した力となります。これがベクトルの合成(足し算)です。

逆に、力の大きさを表した矢印が1つあり、その矢印を対角線とした平行四辺形を描くと、その対角線の根元から分かれている2つの辺が、1つの力を2つの方向に分解した力となります。これがベクトルの分解(引き算)です。

温度風

温度風とは、上層と下層の地衡風の差(ベクトルの差)として定義される風のことです。温度風の詳しい解説については、温度風のセクションで扱います。

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