温帯低気圧
温帯低気圧のエネルギー源
温帯低気圧は中緯度で発生・発達する低気圧で、前線をともなうのが大きな特徴です。温帯低気圧のエネルギー源は、暖気と寒気の間にある有効位置エネルギー(温度差に起因するエネルギー)です。
温帯低気圧は、南北の温度差が大きい前線帯付近で発生します。暖かい空気が上昇して北側(極側)に移動し、冷たい空気が下降して南側(赤道側)に移動することで、有効位置エネルギーが運動エネルギーに変換され、低気圧が発達します。
つまり、温帯低気圧は暖かい空気と冷たい空気を入れ替えることで南北の温度差を解消する作用をもっており、大気の大循環においてフェレル循環を維持する重要な役割を担っているのです。これは傾圧不安定波のセクションで学んだ熱輸送そのものです。
ちなみに、台風(熱帯低気圧)のエネルギー源は水蒸気が凝結するときに放出される潜熱であり、温帯低気圧とは根本的にエネルギー源が異なります。
温帯低気圧のライフサイクル
温帯低気圧は、発生してから衰弱するまでの過程(ライフサイクル)を経ます。このライフサイクルは一般的に発生期、発達期、最盛期(閉塞期)、衰弱期の4つの段階に分けられます。
発生期
前線帯(停滞前線)の上に小さな波動が発生するところから温帯低気圧のライフサイクルは始まります。停滞前線の一部が南側に凹み始め、その凹みの部分で暖かい空気と冷たい空気の交換が始まります。このとき、まだ中心気圧の低下は小さく、前線の波動も浅い段階です。
発達期
波動が成長すると、低気圧の中心が明瞭になり、中心気圧が低下していきます。低気圧の中心から東側に温暖前線が、西側に寒冷前線が明瞭に形成されます。温暖前線と寒冷前線の間の領域(暖域)には暖かい空気が入り込み、暖域の南側(温暖前線の前方)には冷たい空気が広がっています。
この段階では、暖気が活発に上昇して北側に運ばれ、冷たい空気が南側に流れ込みます。有効位置エネルギーが運動エネルギーに効率よく変換され、低気圧は急速に発達します。
寒冷前線は温暖前線よりも移動速度が速いため、徐々に温暖前線に追いついていきます。
最盛期(閉塞期)
寒冷前線が温暖前線に追いつくと閉塞が始まり、閉塞前線が形成されます。中心気圧は最も低くなり、低気圧は最盛期を迎えます。
閉塞が進むと、暖域の暖かい空気は上空に持ち上げられ、地上では冷たい空気に包まれるようになります。暖かい空気と冷たい空気の入れ替えがピークに達し、低気圧の勢力は最大になります。
衰弱期
閉塞がさらに進むと、地上付近は完全に冷たい空気で覆われ、暖かい空気はすべて上層に持ち上げられてしまいます。こうなると、もはや暖かい空気と冷たい空気の入れ替えが起こらなくなるため、有効位置エネルギーの運動エネルギーへの変換が止まり、低気圧は勢力を失っていきます。
前線の構造も不明瞭になり、中心気圧は徐々に上昇し、最終的には低気圧は消滅します。この衰弱のプロセスには、摩擦によるエネルギーの散逸も関わっています。
温帯低気圧の発達の3条件
温帯低気圧が発達するためには、次の3つの条件が重要であるとされています。
条件1:上層の発散が下層の収束より大きいこと
低気圧が発達するためには、中心気圧が低下し続ける必要があります。中心気圧が低下するということは、低気圧の上空にある空気の柱の質量が減少することを意味します。そのためには、下層で流入する空気の量(収束)よりも、上層で流出する空気の量(発散)のほうが大きくなければなりません。
上空の偏西風のトラフの東側(下流側)では上層の発散が大きくなるため、この条件が満たされやすくなります。したがって、地上の低気圧が上空のトラフの東側に位置しているとき、低気圧は発達しやすいのです。
条件2:地上低気圧が上空のトラフの前面にあること
これは条件1とも関連しますが、地上の低気圧が上空の気圧の谷(トラフ)の前面(東側)に位置していることが重要です。この位置関係では、上層の正の渦度移流が低気圧の発達を促進します。
地上の低気圧が上空のトラフの真下やトラフの後面(西側)にあると、上層の発散が十分でなく、低気圧は発達しにくくなります。
条件3:暖気移流があること
低気圧に暖かい空気が流入すること(暖気移流)は、低気圧の発達に重要です。暖気移流があると、低気圧の中の空気柱の温度が上昇し、空気が膨張して等圧面が持ち上がります。これによって上層の気圧傾度が強まり、上層の風(発散)が強まるため、低気圧はさらに発達します。
逆に、閉塞が進んで暖気の供給が断たれると、このメカニズムがはたらかなくなり、低気圧は衰弱に向かいます。
これら3つの条件は互いに関連しており、総合的に満たされたときに温帯低気圧は急速に発達します。急速に発達する温帯低気圧は「爆弾低気圧」と呼ばれることもあり、暴風や大雨をもたらす危険な気象現象です。
傾圧不安定波と水蒸気
温帯低気圧の発生・発達に関連して、もうひとつ重要なことを確認しておきます。傾圧不安定波は、その発生条件に水蒸気を必要としません。つまり、空気中に水蒸気が全く存在しなくても、低緯度と高緯度の温度差さえあれば傾圧不安定波は発生します。
もちろん、実際の大気中には水蒸気が存在しますから、水蒸気の凝結によって放出される潜熱は温帯低気圧の発達を助ける効果があります。しかし、それは温帯低気圧の発達を補助する副次的な効果であり、温帯低気圧の根本的なエネルギー源はあくまでも南北の温度差に起因する有効位置エネルギーなのです。
この点は、水蒸気の凝結による潜熱がエネルギー源である台風(熱帯低気圧)との重要な違いです。
